イタリア最新ホテル事情
先月18日から今月3日までジュエリーの取材でイタリアを縦横断。本来ならブログって日々書きつけるものなんだろうけれど、取材中はそんな余裕もなくて、だからまとめて、気になったことだけをつらつらと記してみる。長文となるゆえ、お急ぎのかたはどうぞ読み飛ばしてください。 北はミラノ、ヴァレンツァ、ヴィチェンツァ、パドヴァ、南下してローマ、ナポリ、カプリと回った。経費にうるさい昨今にしては珍しく「ホテルも面白いところに泊まりましょう」という鷹揚な編集者に恵まれ、それではと予算に限りがありながら、いやだからこそ、限りあるなかでバラエティを楽しみましょうとセレクトしていった。今回の裏テーマは「イタリア最新ホテル事情」である。 ミラノ、まずは常宿をあえてやめて、STRAF。ドゥオモのすぐ足元、リナシェンテ隣、同じ通りにはクラシックなGrand Hotel Duomoとより高級なデザインホテルThe Grayがある。短い道でありながら立派なホテル・ストリート。このSTRAFは3軒中もっとも値段がお手頃なのに、Design Hotelsにも入っているのがウリである。内装は黒を基調とするモノトーンで、浴室も真っ黒、ただしシャワーカーテンのみ真っ赤。でもこの黒ってホコリが目立つのである。特に浴室は細かいホコリがブラウン運動のようにいつも舞っていた。毎日掃除しているのがむくわれない内装である。それから、デザインホテルにありがちなデザイン洗面台は、実に使いにくい。半球体の小さな洗面台で顔を洗うと回りは水浸し。水がはねやすいようにわざと作ってあるんじゃないかと思うくらい。コスメ類を置くスペースが洗面台よりはるか下のほうにあるのも使い勝手がよろしくない。はねた水でびしょぬれなのは言うに及ばず。でも、水回り以外は全体的に快適ではあった。ベッドも固くて広いし、デスクも収納もたっぷり。宿泊客では日本のかたも多くお見受けした。道路に面したバールはハッピーアワー時に若者多し。ミラノ在住日本のかたも多くたむろされていた。 ヴィチェンツァの取材とヴァレンツァの取材の間の週末は、ヴェローナのアレーナ初日であった。編集者とは一も二もなく合意に達し、チケット入手。宿はヴェローナ郊外のByblos Art Hotel Villa Amista’とする。去年だったか、何かの雑誌に出ていたのを「いつか使えるかも」とキープしていたのが日の目を見たのだ。ビブロスって日本では(イタリアでも)現在は今ひとつなブランドだが、なぜかホテル経営に乗り出している。マルチカラーがテーマのブランドらしく、古いヴィッラの内部はこれでもかの色の洪水。コンテンポラリーアートとヴェネツィアガラスのシャンデリアってどうよ、な組み合わせだが、無理矢理一緒にすると「それもありかも」と思えてくるから不思議。イタリア人の力技にねじ伏せられたような気もするけれど。レストランの料理も不思議なものがあった。「バッカラの海藻コンソメ」なるものは、ふっくらと戻したバッカラに海苔、そこへ魚介のコンソメを注いでくれるのだが、このコンソメがまるでお吸い物の出汁のように澄んで軽く、全体に限りなく和食に近い味わい。もしや厨房に同胞がいらっしゃるのでは、と思わせる出来映えだった。 ヴァレンツァ近郊には宿がない(一番近い都市アレッサンドリアにもしがないビジネスホテルしかない)というので、かつてK庭G報で取材したアスティ近郊のLocanda del Sant’Uffizioに泊まる。トリノを中心に五つ星ホテルを傘下に従えるトゥーリンホテルズ・グループの田舎のこじゃれロカンダである。が、今回は料理があまりにひどかったのと、そろそろ内装にガタがきていて、改修見直しの時期にさしかかっていることが判明。2泊したけれど、2泊目はとてもここで食べる気になれず、とはいえレストラン休業の多い月曜日で行きたいと思ったところは壊滅状態、レセプションで予約してもらったアスティのレストランL’Angolo del Beatoに行った。結果としては良好、ピエモンテ伝統の前菜も、うさぎ肉もみな美味しい。月曜日に困ったらここ、という保険を確保できて満足。 ローマでブルガリを取材する前に、7月にオープンするフェラガモの高級B&B、Portrait Suitesを下見したいと広報と約束していたのだが前日になって「工事が終っていなくて」との報。編集者と一緒に入り口まで行ってみたら、本当にとんかんやっていた。「三日後、オープンの予定だけど?」と人ごとながらかなり心配。イタリア人は第四コーナー回ってからの追い上げに生きる喜びを見出す人種だとは知っているけど、今度ばかりは無理でしょう。ローマでの宿はこれまたデザイン系の、しかしお値段はお手頃なLa Griffe。テルミニ傍のホテル街Via Nazionaleにあって、エントランス一歩入ればブラックメタリックな床、壁、天井に「ここはディスコ?」と一瞬戸惑う。私の部屋はベッドの床面積占有率80%強というノーマルダブルであったが、編集者の部屋は「バスタブが猫足でした」というゴージャスダブルで、ベッドの床面積占有率は40%。どちらも値段は同じである。いい部屋に当たるかどうかはまったくの運次第、運試しする心の余裕のあるかた向け。 ナポリでは本当はスパッカナポリのデザインホテルCostantinopoli104か街一番の高級ショッピングゾーン、マルティリ広場の四つ星Palazzo Alabardieriに泊まりたかったのだが、どちらも満室、そこでサイトを見る限りではオドロな雰囲気のChiaja Hotel de Charmeに半ば仕方なく泊まった。が、結果的には悪くないホテルであった。場所はプレビシート広場裏に伸びるショッピングストリート、キアイア通り、18世紀だかの古いパラッツォの二階部分にある。部屋は思ったよりもオドロではなく、ベッドも適度な固さで水回りも快適。暑い一日を過ごしてくたくたになって夕方戻ってくると、ロビーの一隅にレモンを浮かべた冷たい水とスイカとシロップのたっぷり染みたババが出迎えてくれる。部屋の電話線を使ってのネット接続はできないが、レセプションのPCを借りてのメールチェックは可。同行のカメラマンが「こんなの初めて」と言ったのは、エレベータは10centesimiコインを挿入しなければ動かないこと。コインを持ち合わせていなくて、夜中で一人だったらどうする?と聞いたら「機材を引きずって地道に一段一段階段上るよ」とのこと。マジメな人である。 もしやストライキで港がブロックされてカプリまで行けないかも?! 取材先のジュエラーにヘリを出してもらえないか云々と危機説が飛び交ったが、その心配も杞憂に終わり、高速船45分でカプリに到着。宿泊はカプリのジュエラーが用意してくれたJW Marriott Capri Tiberio Palace、比較的新しいゴージャス系スパ・ホテルだ。クラシックな五つ星Quisisanaや、静かで眺めのいいTragaraなどが立つホテルゾーンからは一段山の手の高台にあり、ウンベルト1世広場から細い細いボッテゲ通りをずっとまっすぐ5分ほど歩く。お店が連なるこの細道を荷物を持って歩くのは、(いちいち店のウインドウを覗いてしまうし)かなりの労働。港で荷物を預けるほかはないのだが、それがホテルの部屋まで届くのに最短で45分、下手すると2時間近くかかるので、どうしても必要なもの(水着とか)は荷物から抜き出して持参するのが賢明である。さて、肝心のホテルはカプリのどのホテルにも共通してパブリックスペースも部屋も白が基調。部屋はノーマルツインでも非常に広いのだが(これより広いのはアナカプリのCapri Palace Hotel)、ベッドが異常に場所をとり、ベッドの向こうのテラスに出ようと思うと横向きカニ歩きをしなければならないのが難。それ以外は非常に快適で、プールも気持ちのいいちゃんとした五つ星である。(ただ編集者曰く、朝食のサービスのカメリエーラたちが誰も彼も無愛想なのは五つ星として問題あり。) カプリからの帰り、予約した高速船のチケットを港でホテルの係員から受け取る。するとその係員、「2002年にエスクァイアの取材でレストランを撮影したでしょう?僕はそのとき、そのレストランでカメリエーレをしていました」と言ってきた。えぇぇっ?!とのけぞったら「覚えてないでしょうけれど」とたたみかけられ。申し訳ないけれど物忘れが年々ひどくなる傾向にあるため、マジで思い出せなかった。控えめでインテリジェンスな雰囲気の人だが、私の記憶の中には濃い南イタリア人がたっぷり詰まっているせいで彼は埋没してしまったらしい。「フィレンツェに帰るんでしょう?」ってそこまで覚えているなんて、ちょっと恐い気もしたけれど。 というわけで、いろいろな宿に泊まらせてもらったのだが、その話は一切、取材記事には出ない。記事はジュエリー話に特化されるから。もし、機会があり、ジュエリーに興味のある方は、某クレジットカード会員誌Departures8/20号をご高覧ください。mnm  

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