Veneziaのパスタと乳化現象
Veneziaのオステリアではおしなべて全般的にパスタがオイリーな感じがするのは私だけでしょうか?茹で時間ちょうどに茹であげたスパゲッティをフライパンにうつし、オイルをどぼどぼ(想像)。そのまま1分、時に2分、3分ほど加熱して出すから麵は茹で過ぎ、熱々でオイリーなパスタのできあがり。違和感を覚えて食べ進むうちやがてフォークがすすまなくなり、皿はオイルの海となる。食後にソースが皿に残らないのをパスタ・ソースの理想型とするならこうした料理はその対極にある。先日ヴェネツィアでやむなく入った店も予想通りそんなオイル・パスタの店だった。 かつて知り合いのピッツァ職人が「●●の店はソースをパスタの茹で汁でなくてオイルでのばしているから油っぽい」といったがオイルでのばすからオイリーなのではなく、例えオイルを多用してもオイルを感じさせないのがプロのワザである。 事実イタリアで料理人がパスタを作るのを見ていると驚くほどオイルをどばどば使うが、最終的に口中でオイルをあまり感じないのは乳化現象のせいである。乳化の最たる例はマヨネーズ。水と油というなじまない2つの物質を結びつけているのは玉子である。こうした凝固剤が油の分子を包み込んで水の分子と結合させるとあーら不思議、ソースにはとろみがついて麵にからみつくようになり、油の分子が舌に直接接触しないのでさほど油も感じなくなる。鶏卵の代わりに魚卵であるカラスミを使った「ガルガ」のボッタルガ・スパゲッティはその典型である。粉末カラスミ・パスタしか知らない人は一度ガルガで目から鱗を落としてみるべし。 凝固作用を持つ(イタリア語でデンサンテ)食材は他にも沢山ある。バター、チーズを筆頭にジャガイモ、豆、骨などなどのたんぱく質やでんぷん。焼きそばなら片栗粉、スペインやイタリアでもはやってるのは葛。しかしもっともシンプルで手を伸ばせばそこにあるものといえばパスタの茹で汁である。茹で汁を少々加えてソースを仕上げるのは、ソースが煮詰まったから塩味のついた湯で薄めるのでなく、パスタから溶け出したグルテンの凝固作用で水と油を結合させるのである。特にデュラム・セモリナはグルテンが強い、つまり分子の結合力が強い理想的な乳化剤なのである。と、口でいうのは簡単だが、実践するのは難しい。このあたりの微妙な火力、湯加減、さじ加減こそが料理人の腕のみせどころである。 経験則では知っていても、なぜ茹で汁を加えるのか知らない方も意外と多いので、そんな方はエルベ・ティス博士の名著「鍋と試験管」をどうぞ。MASA

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