Antica Marina@Catania
ひいきでもなんでもなく(いや、ひいきもかなりあるが)シチリア最強、いやおそらく南イタリア最強のトラットリアとして、口角泡を飛ばして繰り返し人に言いたいのが泣く子も黙るカターニア・ペスケリア市場にあるアンティカ・マリーナである。
かつてAntica Osteria Toto@福岡、の本田剛シェフが腕を磨いた店として知られる同店で過ごすひとときはシチリア旅行中かけがえのない時間であり、アンティカ・マリーナを知らずにシチリアを後にすることほど悲しいことはない。で、土砂降りの中、9ヶ月ぶりに訪れたアンティカ・マリーナは、やはりやはり素晴らしかった。
例によって2代目オーナー、サルヴォと挨拶を交わし通されたのは久しぶり、右手に市場、左手に厨房&前菜のバンコが見える、いわばとっておきの砂かぶり、特等席。前菜を用意する踊り子さん、もといカメリエーレには手を触れないで下さい状態で、サルヴォと交わした会話はこれまた例によって超シンプル。「前菜食うか?」「食う」「パスタはおまかせでいいか?」「いい」「セコンドはパスタ食ってから考えるけどそれでいいか」「いい」いつものように交わす言葉はこれだけである。
では前菜小皿から行く。いつものようにどどどん、と次から次に登場する本日の小皿料理は満漢全席状態でなんと20種。思いつくままに書くと以下の通り。タコの甘辛フリット、小エビのレモン・マリネ、バッカラ(東シチリア風にいうならストッコ)&フラゴリーノ、揚げカルチョーフィ、アンチョビの限りなく生に近いマリネ、アンチョビ&ズッキーニ、マグロ&ズッキーニ&トマト&モリーカ、リコッタ・サラータ&アンチョビ、メルルッツァの南蛮漬け、カポナータ、カジキ(?)のマリネ、ゆでだこ、名も無き貝の蒸し煮、ムール貝の蒸し煮、サーモン・マリネなどなど。そんな小皿と夢中になって格闘しているとやがて運ばれて来るのが例によって温かい前菜、セッピオリーニのフリットだ。ベイビー・スクイッド、つまり小指の先ぐらいの生まれたての小イカを硬質小麦と黒胡椒をまぶしてからりと揚げると極上の酒のあてとなる。
ついでパスタはビス。アーモンドとトマトの”トラパネーゼ”フジッリにカルチョーフィとスカンピのスパゲッティ、とこのあたりで打ち止めとなる。しかし見ればとなりのテーブルでは山盛りのウニをスプーンですくっては食べ、すくっては食べしている男衆や、ウニ・スパが運ばれて来るテーブルもある。なのでサルヴォに「こっちにもウニ持ってこんかい」と脅すと、店に出入りする魚屋と相談。「殻付きウニが終わったのでブルスケッタでもいいか?」とのこと。ペスケリア市場名物むき身のウニを使ったブルスケッタのことで、さらに海水とレモンでさっと味付けしたトコブシ「オッキ・ディ・ブーエ」も登場。官能的なハード・パンチの連発でもうろうとしはじめたころサルヴォが「これ飲めや」と持って来たのが私もサルヴォも生まれる前のFlorioのマルサラ1964。コニャックのようなこれでしめて勘定を頼むと(まけてくれたこともあるが)市場で目にした海の幸をあらかた食いつくしたにも関わらずこれまた目を疑うような値段。いつもいっていることだが、また来たい、いつでも来たい、すぐ来たい。シチリアの奇跡にして珠玉の食卓、東の正横綱であることに疑いはみじんもない。
P.S.シチリア編写真UPしました。下はペスケリア市場&アンティカ・マリーナの動画です。例によって音が出ますのでご注意を。MASA
SAPORITAをもっと見る
購読すると最新の投稿がメールで送信されます。
アンティカ・マリーナについての文章を拝読するたびに,激情!です.シチリアはちょっと遠い私ですが,そんなこと言ってちゃいけないんじゃないか?!と,自分を詰問してしまいます.トコブシ大好きですので気になります.海水とレモンの味付け?生ですか?アワビのお刺身ふうでしょうか.実家は非常に恵まれた漁場を控えている地方ですが,今は海から80キロも離れて住んでいるので,「今朝揚がった」魚に飢えています.福岡のトトさんにも遠征しましたよ!サヨリをルビ無しで「針魚」と書いてあったのに,こだわりを感じました(メニュー).ご帰国中は春のサワラとか美味しい時期にあたりますね!日本の魚を満喫してゆかれて下さい.
Arancia様
プーリアはじめシチリアあたりでは海水で調味して生魚介類を食べさせてくれることがままありますが、先日のアンティカ・マリーナもそんな感じの生食オッキ・ディ・ブーエでした。確かにシチリアの地は遠く、マヨーレやダ・ヴィットリオはシチリアのさらに奥の奥ですが、だからこそ行かねばならない、と私の中にも不思議な義務感のようなものがあるのも確かでございます。それは熱病のようなものですが、この熱病はいつ終わるとも知れません。MASA
度々失礼いたします.先日,さっそくトコブシの南イタリア風,試すチャンスに恵まれました.独特の,磯の香が苦手な方には,この食べ方がおすすめですね.美味しかったです.肝は,トマト,黒オリーブなどとオリーブオイル和えにしたら,結構いけました.
カターニャを夢見つつ,まずは日本で工夫してみることにします!また魚介類メニューをご紹介頂けるのを楽しみにしております.
Arancia様
南イタリア風トコブシ、いいですね。そういえばアンティカ・マリーナはじめシチリアでも肝はあまり使ってないような記憶が・・・。どうしてるんでしょうねぇ。シチリア人が捨てるとも思えませんし、今度リサーチしてみます。南イタリアといえば今月はプーリアに出かけます。バーリ近郊では貝やイカ、エビなど海水とレモンで味付けして生食するのでこれも楽しみです。MASA