カプリのオレソヅヅュース
気づけばイタリアに住んでから干支は一回りし、東奔西走南船北馬、取材でイタリア中を飛び回る稼業を渡世としていながら今まで足を踏み入れたことがないのを恥じている大メジャー&観光スポットが3つほどある。そのひとつがカプリ。他の2つはあえて名を秘すがいずれカミングアウトする機会もあるかと。 今回念願かなって無理矢理時間を作り、ソレントから水中翼船アリスカーフォに乗って出かけたのがカプリ島。憧れのリゾートアイランド、セレブ御用達、トルタ・カプレーゼ、インサラータ・カプレーゼなどなど世界にその名を轟かせるカプリならではのキラー・コンテンツは幾つもあるが、温故知新のイタリア料理との邂逅を目指す向きには大した成果はない島である。なぜなら名物カプレーゼに必須のモッツァレッラはカプリ産でなくナポリ近郊産である。景色はきれいだけれどブランド・クルーズもしくは5つ星ホテルにステイして船遊びするのでなければ滞在する意味を見いだせない。ガンベロ・ロッソを見てもオステリア・ディタリアを見ても行きたくなる店もなければ食べてみたい料理もない。その点お隣のイスキア島やトスカーナのエルバ島、あるいはシチリアはエオリエ諸島のサリーナ島などその空気を吸い込んでいるだけで心底デトックスされるのみならず、土地に根ざし、語り継がれ食べ継がれて来たソウル・フードは異邦人としてみれば新鮮かつ斬新で口にするたび目から鱗がぽろぽろとこぼれ、島を去る瞬間からまたいつか戻って来る日を夢見てしまうようなイタリアの島々に比べると、カプリ島にそうした魅力は(今のところ?)見いだせない。今まで機会が無かったのはあえて行こうとも思わなかったからであるが、初めて訪れてみてもやはり胸ときめくことは少なかった。これはあくまでイタリア料理模索の旅、という観点での話であるが。 なんということを考えながら港のカフェで口にしたのがブルスケッタ・カプレーゼ。ダイス切りにしたポモドリーニのブルスケッタにモッツァレッラを小さく乗せてさっとあぶって溶かし、バジリコを添えたスタイルは、いってみればブルスケッタ・マルゲリータだが、考えてみればありそうであまりないウナ・ブォナ・イデア、と、はたと膝を打った昼下がりであった。一方トルタ・カプレーゼとはいわばトルタ・ディ・チョコラートだが、アマルフィの「カフェ・パンサ」あたりで食べるそれはパンナ・コッタやティラミスと並ぶ全国区のドルチェとしてもっと流通していいように思える味。今回カプリで口にする機会は無かったが、これは試す価値あり。 ところで、とまたしても話は変わり、カプリで見かけたジュース屋台の看板。以前はローマあたりのジェラート屋台でも変な表記を見かけたり、「ローマの中心街に立ててやった三流ホテルです!!」と自らのサイトで堂々とうたう三ツ星ホテルがあったりしたけれどさすがに最近そうした表記は姿を消しつつある中、カプリで見かけた看板はやけに新鮮でほのぼのとした温かさに包まれておりました。MASA

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