スペイン・バル論2 El Vaso de Oro@BARCELONA
店名の「エル・バソ・デ・オロ」とは黄金のグラスという意味、つまりセルベッサ、ビールのことだ。酒飲みなら店名を聞いただけで是非一度訪れてみたくなるではないか。 バルセロナのベイエリアにバルセロネータという一画がある。最近このエリアはポートヴェイやオリンピック村跡地の再開発、デザイン・ホテルの誕生などにともない新たに脚光を浴びているが、も ともとは古くからある庶民的区画とビーチがあるバルセロナ市民にとってはなじみ深い憩いの場所。「エル・バソ・デ・オロ」はそのバルセロネータにあるのだが外見はいたって地味で、知らなければ通り過ぎてしまうほどさりげなくて目立たない。しかし一度そのドアを開けて入ってみると活気あふれる映画のような空間に圧倒されること間違い無い。ドアを開けると目の前がすぐカウンター。その距離わずか数十センチの場所で繰り広げられるのは歌うようなカタルーニャ語で客を鼓舞し、オーダーを通すしゃがれ声のバリスタたち。サーバーから目にもとまらぬ早さで次から次へと黄金のグラスにビールを注ぎ、またしても目にも止まらぬスピードでカウンターの中を右に左に滑るように動き回る。その圧倒的な迫力はまるでオペラ・バル。「エル・バソ・デ・オロ」の主役は客でなくて、このバリスタたちなのである。すでに超満員の店内で空席を待つには、板張りの壁に背中を押し付けてひたすら誰かが飲み終わるのを待つしかない。 海に近いこともあり、この店の名物は魚介類をソテー「ア・ラ・プランチャ」するかフリット「ア・ラ・アンダルーサ」にしたシンプルな料理だが、 料理もさることながらその神髄は生ビール道にある。注文が入ると細長いグラスにサーバーからビールを注ぎ、まずは余分な泡を特製ナイフでさっと飛ばし、しばらく置いてから二度、三度と泡を注いで仕上げるのは日本のビアホールではおなじみだがイタリアではほとんど見ることがない。4杯同時に作っても泡の量はぴったり同じ。そしてビールができあがるとまたしても目にもとまらぬ早さでビールを配って回る。その動きは全く無駄がなく、このバリスタの仕事ぶりを見るためだけでも訪れる価値がある。 カウンターに並ぶ大皿に山と盛られているのはロシア風サラダ、エンサラディーリャ・ルサEnsaladilla Rusa €4.00やピリ辛ツナ、アトゥン・ピカンテAtun Picante €4.50。特に特製の揚げトーストががさっと盛られたアトゥン・ピカンテはビールのつまみとして最高のスナックである。そして大抵の客が注文するのは牛フィレ、ソロミージョSolomilloで、鉄板でさっと焼いてから拍子木切りにして出してくれる。ピメントス・パドロンと一緒盛りSolomillo con Pimientosなら€17.00、フォワグラ乗せという掟破りの裏バージョンもばんばん注文が入る。きづけばセルベッサも一杯、二杯。イタリアでもスペインでも最近チップを置く習慣はすたれつつあるが、この店では喜んでカウンターに小銭を置いて席を立ちたくなる。プロフェッショナルの流儀、バルセロネータ版ここにあり。 El Vaso de Oro Balboa 7, BARCELONA Tel933-193098 9:00〜0:00 無休 vasodeoro.com    

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