Boccondivino@BRA(ALBA)
アルバ近郊のブラといえばスローフード運動協会発祥の地であり、スローフード本部、出版部などがある小さな町。そのスローフード本部内にあるBoccondivinoボッコンディヴィーノは、料理関係者ならば一度は訪れたことがあると思うが、スローフードの聖地にして極致、ガンベロロッソのトレ・ガンベリ・ホルダーでもある。ピエモンテ料理とワインを味わいに彼の地を訪れたのであれば、ボッコンディビーノを素通りすることは木を見て森を見ず、本質を見逃す行為に等しい。 ミラノによくあるようなタウンハウス(というのか?)の中庭のテラスには風体からしてスローフード関係者、ジャーナリスト、料理人、ワイン生産者、××業界などなど、ようするにツーリストではないイタリア人および外国人が多く一見では入りにくい雰囲気もあるが、そうした人々も店の一部だと考えればそれはそれで楽しめるものである。食事は2階、今回が約10年ぶり3回目の訪問になる。前菜はラルド、サルシッチャ・ディ・ブラ、カルネ・クルーダの三種盛り。ラルドは上質できめ細やか、ピエモンテのファッソーネ牛のカルネ・クルーダ、つまり生肉はこれまた上質で、ホンマグロの赤身を思わせるようなテクスチャー。そしてこのあたりでしか食べられないサルシッチャ・ディ・ブラ。ブラの町を歩けば肉屋の店先で見かけるが、ほのかな熟成香が漂う子牛肉の腸詰めはほとんど生肉に近い感触で一度食べたら忘れられず、またこの味を求めてブラをさまよいたくなる。     ヴィテッロ・トンナート。この古典的かつ典型的な夏のピエモンテの前菜も東京のイタリア料理店ではあまりみかけなくなったと聞くが、クラシックにし て王道、清冽にしてミニマル。ひらたくいえばツナマヨ・ソースで、夏野菜、白身肉、ゆで卵などなどその他なんでもあう蒸し暑いピエモンテの夏向きの万能 ソース。パスタはサルシッチャのラグーのタヤリン、つまりタリエリーニ。最小限の野菜とサルシッチャのみで作ったラグーは脂は軽いが、ラグーもカルネ・ク ルーダも正直オリーブオイルが物足りない。リグーリアからピエモンテにかけて車で旅すると分かるが、ある時オリーヴ、照葉樹を中心とした地中海的風景から 中央ヨーロッパ的風景にふと変わる瞬間がある。オリーヴの森林限界線、これより北はオリーヴオイルの文化ではない、ということを示す地図には描かれない食 文化的国境。このタヤリンは地中海的イタリア料理の森林限界線を越えた越境料理なのである。 そしてスローフードの希少食材にも指定されているカルマニョーラ産のコニッリオ・グリージョ。これはオイルたっぷり蒸し煮風に仕上げたもので、従来のウサギ感を覆すような驚愕の料理で付け合わせはまたミニマルなフランス風にんじんのグラッセ。ボネ、セミフレッド。淡白で飽きないピエモンテ料理の神髄。 Osteria del Boccondivino Via Mendicità, 14 BRA   Tel0172 425674 http://www.boccondivinoslow.it/

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