ローマ最強カルボナーラ伝説 Roscioli@ROMA

よく日本の雑誌やガイドブックでイタリアのレストランの記事を読んでいると「現地での評価も高い」とか「地元で愛されている」という表現をよく目にすることがあるが、それは「どの」「誰の」評価なのか明らかにされていないことがあまりに多い。たとえばネットのレビューやブログなどを読むと分かるが、こうした似たような表現は大抵はどこかからの孫引きであることが多い。つまりは本当にどこの誰がどのように評価しているか知らないまま安易に使われているのだ。

「ローマ1のカルボナーラ」と評されることが多い「ロショーリ」もなぜそのように評価されているのか、はほとんど語られていないが、これは雑誌Gambero Rossoの「ローマ・カルボナーラ・ランキング」で1位になったことがあるからで、その点「ガルガ」のパスタ「イル・マニフィコ」が米国版GQで世界トップ3料理に入ったのと同じような雑誌による評価なのである。

日本のガイドブックを何誌かを読み比べてみると分かるが、掲載レストランはほとんど同じである。これは他誌が評価しているから安心して掲載できるという意図もあるかも知れないが、大抵の場合は単なる孫引きであることがほとんどである。ところがイタリアのガイドブックの場合はこうしたことはほとんどなく、それぞれが独自の哲学に基づいて独自の評価をしている。ことカルボナーラに関して言うなら、スローフード協会が毎年発行しているOsterie d’Italia2015によればラツィオ・ローマ地域のベスト・オブ・ベストはこのようになっている。

★Carbonara

Da Cesare(ROMA)

Grappolo d’Oro(ROMA)

L’Osteria(ROMA)

Osteria del Borgo(ROMA)

果たしてこれらの店に行ったことがある人がどれだけいるだろうか?日本のガイドブックではほとんど紹介されていないので(Grappolo d’Oroぐらいか?)辿り着くことでさえなかなか困難ではないかと思う。ちなみにOsterie d’Italia2015の他のローマ料理のベスト・オブ・ベストは以下の通り。

★Amatiriciana

Lo Scoiattolo(AMATRICE)

Il Ruspante(CASTRO DEI VOLSCI,FR)

Pietrino e Renata(GENZANO DI ROMA,ROMA)

Sora Maria e Arcangelo(OLEVANO ROMANO,ROMA)

 

★Cacio e pepe

Di Silvana(ARCINAZZO ROMANO,ROMA)

L’Oste della Bon’Ora(GROTTAFERRATA,ROMA)

Osteria del Veldromo Vecchio(ROMA)

Roberto e Loretta(ROMA)

★Gricia

Taverna Mari(ROMA)

Teresa(LATINA)

La Rocca del Gusto(MONTEROTONDO,ROMA)

Da Armando al Pantheon(ROMA)


ここまで来るとDa Armando al Pantheonをのぞいて、ほとんどが普通日本では知られていない店だと思う。イタリアの場合ガイドブックによって評価はこれだけ異なるのだ。Osteria d’Italiaでは全く評価されていない「ロショーリ」で取材したカルボナーラはこうだった。まずグアンチャーレをフライパンでじっくり熱し、かりかりになったら脂を切って少しさます。溶き卵、ペコリーノ、パルミジャーノ・レッジャーノ、グアンチャーレをボウルにまぜ、茹で上がったパスタを加えてよく混ぜ、余熱だけで卵に柔らかく火を通す。仕上げに黒こしょうをたっぷり。ポイントは卵を室温に戻しておくことと、パスタのお湯を良く切ること。そうしないと卵が生っぽく、水っぽくなってしまうのだ。当時のロショーリではペコリーノ・ロマーノはラツィオ州で唯一の作り手であるブルネッリ社のものを使っていた。数年ぶりに訪れた「ロショーリ」ではカルボナーラについてメニューにこう書かれていた。

La Carbonara

Spaghettone con guanciale artigianale, pepe nero malesiano, uova di Paolo Parigi e Pecrino Romano DOP €15.00

グアンチャーレ・アルティジャナーレ、マレーシア産黒胡椒、パオロ・パリージの卵、ペコリーノ・ロマーノのスパッゲットーネ

パオロ・パリージの卵が美味しいかどうか?というのはよく話題になることだがそれはさておき、食材の出自を事細かくメニューに表記している点は非常に好感が持てる。「ウニのスパゲットーネ」も「黒豚のサラミ盛り合わせ」もどちらもきちんとした料理、セレクトで客のほとんどが外国人観光客でありながらもきちんとしたサービスと説明を続けるスタッフにはさすが名店、という意気込みを感じた。このような店に飛び込みで出会える確率は実はローマではあまり高くない。ヴェネツィアと並ぶ大観光地だけに一期一会、一食入魂のレストラン選びには最新の注意と信頼できるガイドブック選びが重要なのだ。

さて、肝心の「ロショーリ」のカルボナーラはというと以前食べた印象と全く同じ。当時はエジプト人料理人が作っていたのだが、おそらくは数万回作り続けることで出せる安定した味というのはこういうものなのだとあらためて思った。それは「シェアしましょう」といってパスタをひとくちすするだけでは決して辿り着けない、一皿を完食してこそ分かる本質であり、「量が質に転換する」という料理における分水嶺を超えた時に初めて見えて来る世界なのである。