ミラノ・ガストロノミー2016の新傾向
2015年版のミシュラン・イタリアでは噂されていた「ヴィッラ・クレスピ」シェフ、アントニオ・カンナヴァッチュオーロの3つ星獲得こそならな かったものの「ベルトン」のアンドレア・ベルトン、「IYO」の市川晴夫らミラノ勢の一つ星獲得などさまざまな動きがあり、昨年11月に閉幕したミラノ万 博へ向けミラノ・ガストロノミー界の実力を世界に見せつけたのがすでに懐かしい。 果たして2016年版のミシュラン・イタリアはどうか、と いうと新たな3つ星誕生はなく2年連続現状維持の8件のまま。しかしニューカマーもあり、降格組もあり、中でも最も話題となったのが開店わずか1年で1つ 星を獲得した日本人シェフ徳吉洋二の「TOKUYOSHI」だ。 「オステリア・フランチェスカーナ」でマッシモ・ボットゥーラの右腕として9年働き、同店がミシュラン2つ星、3つ星と階段を駆け上がる黄金時代を体験し独立。満を持して2014年12月ミラノに自分の店を開いたのだ。徳吉洋二が標榜するのは「クチーナ・コンタミナータ」これは直訳するなら「汚染された料理」となるが、イタリアと日本がともに影響しあい、新たな世界を生み出すことを意味している。料理人というよりも研究者、哲学者といった風貌の徳吉の料理は時に過激で時にユーモラス。「フリカケ・リゾット」や「サバの魚拓」など大胆かつ斬新なアプローチがイタリア人にも大いにうけ、おそらくは今現在ミラノで最も新しく、体験すべき料理の筆頭となっているのだ。 同じくミラノから誕生した1つ星はともにホテル・ダイニングで「アルマーニ・ホテル」の「アルマーニ」と「マンダリン・オリエンタル」の「セータ」。先行している「ホテル・ブルガリ」の「イル・リストランテ」、「パーク・ハイアット・ミラノ」の「ヴン」などとともに、ミラノではクリエイティヴ系ホテル・ダイニングが主流となっている。 またセンセーショナルな話題だったのはトリノの2つ星「コンバル・ゼロ」の1つ星への降格。かつて「サイバーエッグ」はじめイタリア一過激な料理を展開し、トリノ工科大学で「フードデザイン」講座も持っていた「教授」ダヴィデ・スカヴィンだが形而上料理でもあるフードデザインの時代は終わったのか。この件についてダヴィデ・スカヴィンは「わたしは何よりも自由を好む」とそのスタイルを曲げないことを宣言し、「エスプレッソ」では20点満点中19点獲得していることについても言及した。また「ミシュラン・イタリア」の編集長セルジオ・ロヴリノヴィッチは降格事件についていつでも詳細を公表する用意がある、と述べている。 イタリア料理界ではこの20年で分子料理、再構築料理、再解釈料理などさまざまなコンセプトが誕生しては融合、あるいは消滅していった。いままではグローバリゼーションには真っ向から対立して来たイタリア料理界だが、今後は徳吉のように国籍を超えた新たなイタリア料理が評価される時代になるのかもしれない。現に「World Best 50 Restaurant」で評価が高いレストランはことごとくニューワールドの国々から生まれている。イタリア発の日本人シェフ徳吉洋二がそうしたシェフたちと肩を並べるようになるのもそう遠くないかもしれない。

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