サルデーニャの食を訪ねて01 カブラスのボッタルガ

去る2016年6月6日よりサルデーニャで行われた食のフォーラム「FORUM AGROALIMENTARE」に、在日イタリア大使館貿易促進部の招待でプレス参加してきた。これはサルデーニャ州が初めて行った試みで、サルデーニャの食をもっと知ってもらおうとバイヤー、ジャーナリストなど世界中から関係者数十名をサルデーニャに招待し、4日間の公式プラグラムの間、どっぷりとサルデーニャの食の現場を見て、聞いて、食べてもらおうというもの。ベースはサルデーニャ西部アルゲーロだったものの連日専用バスで険しい山道を走ること数時間。あまりのハードなツアーに音を上げる参加者も出たほどだった。
しかし「サルデーニャ!」(講談社刊)でサルデーニャ島をくまなく取材した時に感じたこのは、70年代以降オイルマネーによって開発された海沿いの華やかなサルデーニャではなく、内陸部にこそサルデーニャ古来の文化が残っていることだ。中でも最も深く厳しいディープ・サルデーニャは「バルバージア地方」。今回のフォーラムではこのバルバージア地方の生産者をくまなく回る予定なのである。
まず向ったのはアルゲーロの南約70kmにあるカブラスだ。高速道路が存在しないサルデーニャでは島を南北に縦断するE25号線が唯一の幹線道路だが、これをひた走ること2時間。ようやくカブラスに到着した。
サルデーニャを代表する食材である、ボラのカラスミ「ボッタルガ・ディ・ムッジネ」Bottarga di muggine は主にここカブラス周辺で生産されている。小さな集落、といった感じのカブラスの町を歩けばあちこちに「ボッタルガ」の看板が。この町はボッタルガ愛好家にとっては聖地であり、町を一歩出ると広大な汽水域には昔ながらのボラ漁師の小屋がいまも営みを続けている。
まだローマ人が地中海を制覇する以前、フェニキア人がイタリアにその製法を伝えたとされ、ボッタルガとはアラブ語で魚卵の塩漬けを意味するbatārikh (بطارخ) バターリクに由来する。サルデーニャの一部ではいまだに「ボッタルガ」ではなく「ブターリガ」とアラブ語と同じ発音で呼ばれている。現代イタリア料理ではこれを擂り下ろしてパスタにしたり、白いんげん豆とあえたり、あるいはブルスケッタにしたりするが、サルデーニャでは伝統的に薄焼きのパン、パーネ・カラサウの上にボッタルガのスライスをのせ、オリーヴオイルをかけて食べる。ワインはヴェルナッチャ・ディ・オリスターノが伝統的な組み合わせである。
今回訪ねたボッタルガ工房「Oro di Cabras オーロ・ディ・カブラス」では昔ながらの手作りでボッタルガが作られていた。まずボラの卵巣を1時間から1時間半塩漬けにし、その後水洗いしてから細長い板の上に並べる。ボッタルガを並べた板を互いに重ねること約6〜7時間、ボッタルガは平らな形となり乾燥行程にうつる。板の上に並べたボッタルガを6〜7時間ごとにひっくり返すこと数日。その日数は湿度や気温にもより異なるが、内部から周囲まで均一に乾燥させてから出荷する。これが工業製品の場合は自然乾燥ではないため外側だけが固く、内部は柔らかい、つまり乾燥具合が均一にならない。
伝統的にはカブラスの汽水域に産卵に訪れるボラを捕え、その卵を使ってボッタルガを作っていたが世界的なイタリア料理人気からサラデーニャ産のボラの卵だけでは生産においつかず、現在大部分はモーリタニア産の冷凍したボラの卵を使用しているのが現実だ。
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