「グイダ・エスプレッソ」40周年記念、2018度版発表
去る2017年10月19日、フィレンツェのスタツィオーネ・レオポルダで毎年恒例「グイダ・エスプレッソ」の新刊発表会が行なわれた。この時期イタリアでは「ガンベロ・ロッソ」「ミシュラン」「オステリエ・ディタリア」など重要なレストラン・ガイドが相次いで発表されるが、中でもイタリア発のガイドブックとして最も権威と歴史があるのが、今回で40周年を迎える「グイダ・エスプレッソ」だ。 「かつてイタリア料理のレベルがこれほどまでに上がったことはない」と「グイダ・エスプレッソ」主筆である料理評論家エンツォ・ヴィッツァリはいう。北はアルト・アディジェのノルベルト・ニーダーホフラーから、南はシチリアのピノ・クッタイアまで、イタリア半島津々浦々、あちこちで地方色豊かなガストノミー料理が生まれ、北欧等ニューワールドの影響も取り入れつつそれはミクロクリマならぬ「ミクロクチーナ」と呼ばれ始めている。「世界ベストレストラン50」の成功を見て明らかなように、未知の味を求めて辺境を旅するガストロノミー・ツーリズムが盛んな現在、イタリア各地に個性的な料理人が誕生することは観光的側面からも重要なのである。 一昨年「オステリア・フランチェスカーナ」が史上初の20点満点を獲得して以来「グイダ・エスプレッソ」は点数制を廃止、最高峰のレストランには「5つの帽子」を与えて評価するようになったが、今回は40周年を記念して殿堂入りに相当する「金の帽子」が10件のレストランに与えられた。それはいずれもイタリア料理史を彩って来た歴史ある名店ばかりで「カイーノ」「コッリーネ・チョチャーレ」「ダル・ペスカトーレ」「ドン・アルフォンソ1890」「エノテカ・ピンキオーリ」「ロレンツォ」「マルケージ・アッラ・スカラ」「ミラモンティ・ラルトロ」「サン・ドメニコ」「ヴィッサーニ」、いずれのシェフも巨匠と呼ぶにふさわしい重鎮ばかりだ。 一方「5つ帽子」は「レアーレ」「レ・カランドレ」「オステリア・フランチェスカーナ」「ピアッツァ・ドゥオモ」「ウリアッシ」の5件、また各部門表彰でも「オステリア・フランチェスカーナ」の強さが際立っており「最優秀レストラン」「最優秀サービス」の重要部門2つを受賞した。タカ、ダヴィデという2人のセコンドシェフとともにマッシモ・ボットゥーラが登場すると、エンツォ・ヴィッツァリはマイクを譲り、例によってボットゥーラのマイク・パフォーマンスがはじまった。 「イタリア料理のレベルはかつてないほどに上がっているというヴィッツァリ編集長の意見には賛成だが、北欧がイタリアに影響を与えているという考えには反対だ。イタリア料理には2000年の歴史があり、その長い歴史にささえられて今現在各地でイタリア料理が花開いているのである。それは北欧とかスペインの影響ではなく、イタリア人のDNAそのもの。伝統を一度見つめ直してから壊し、現代的思考で再構築する作業が必要なのだ。」 こうしたボットゥーラの呼びかけにも似たスピーチには会場を埋め尽くした、多くのシェフたちから盛大な拍手がわきおこった。いまやボットゥーラは一シェフとしてのみでなく、イタリア料理界全体について代弁する、マルケージの後継者として存在感をますます高めているのだ。また、会場には徳吉洋二、能田耕太郎という2人の日本人1つ星シェフの姿もあった。徳吉、能田の2人は過去のイタリア料理界には存在しなかった、日本人のDNAをイタリア料理を通じて表現するシェフであり、イタリアでもその実力と才能は高く評価されている。期せずして会場には2人の師であるマッシモ・ボットゥーラとエンリコ・クリッパという3つ星シェフの姿もあったが、徳吉と能田が師に並び、追い越す日が来るのを期待しているのはわたしだけではないはずだ。  

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