ハインツベック@大手町の本懐
つきつめれば郷土料理至上主義ともいわれるイタリア料理界において、世界的に有名かつ活躍している話題のシェフは数多いが、リベラルな発想で芸術的料理を作り続けることは簡単ではない。しかしハインツ・ベックは長年芸術的イタリア料理を作り続ける代表的シェフであり、その筆頭である。 ドイツ出身のハインツ・ベックは、2006年ローマの「ラ・ペルゴラ」にドイツ人シェフとしてイタリア料理史上初めて、またイタリアの首都ローマにも史上初めてミシュラン3つ星をもたらしたエポック・メイキングなシェフである。現在はその活躍をローマから世界へと広げモナコ、ロンドン、ドバイ、ポルトガルと次々にレストランをプロデュース。話題の新店をオープンしているが、2015年には満を持して東京に、自身初となる自分の名前を冠した「ハインツ・ベック」をオープン。店の格からすれば当然という感はあるが、2018年版東京ミシュランでついに1つ星を獲得した。まだミシュラン正式発表前の11月20日、ハインツ・ベック本人が同席してランチをする機会があったが、10年ぶりに会うハインツ・ベックは以前と相変わらずにこやかで物腰柔らか。しかし厨房に立つと一転して厳しい表情を見せるところも、昔と全く変わっていなかった。ドイツのホテル学校を出て料理人としてのキャリアをスタートさせたハインツ・ベックはミュンヘンやベルリンなどドイツ国内の高級レストランで働いた後、1994年にローマの「ラ・ペルゴラ」のシェフに就任する。ハインツ・ベックがイタリアに見せられたのは料理や食材もそうだが、その色彩や風景。かつて文豪ゲーテが南イタリアに惹かれたようにハインツ・ベックもシチリアを愛し、生涯の伴侶としてシチリア出身の女性を選んだのも決して偶然ではないだろう。 現在世界の各店舗を回り続けるハインツ・ベックが信頼し、東京の「ハインツ・ベック」のエグゼクティブ・シェフに抜擢したのがナポリ出身のジュゼッペ・モラーロ。実家がレストランというイタリア料理界のサラブレッドで、ハインツ・ベックと二人三脚で日本の食材を積極的にコースに取り込んでいる。その評価は本国イタリアでも高く、2016年にはイタリアのレストランガイドとして名高いガンベロ・ロッソから、東京を代表するガストロノミー・レストランとして選ばれたほどだ。日本のイタリア料理の水準はここ20年で目覚ましい進歩を遂げたが、東京オリンピックを境に、日本のハイレベルなイタリア料理を食べたい、というフーディーズも多く訪れるようになるのではないだろうか。そうした意味でもアジア唯一の「ハインツ・ベック」はこれからますます重要な存在になるだろう。 ハインツ・ベックのシグネチャー・デッシュはなんといっても「ファゴテッリ ハインツ・ベック」だろう。ファゴテッリとは袋状の詰め物パスタのことだが、中にはカルボナーラ・ソースが詰まっている。これはローマの伝統料理「スパゲッティ・アッラ・カルボナーラ」をもっと軽く出来ないかと考えた末に生まれた新解釈料理。パスタ生地はシルクのように薄くて滑らか。ローストしたグアンチャーレのカリカリした食感も楽しめる。ローマの下町あたりで食べる重くて濃厚なカルボナーラと違って究極のカルボナーラの進化形ではないかと思う。「ラズベリーのスフェラ」もハインツ・ベックの代名詞的存在。冷たいヘーゼルナッツクリームの上に置かれた赤い球形のシャーベットは、ボールのような構造で内部が空洞になっている。これをスプーンで崩しながら食べるとその心地よい酸味も去ることながら、一体どうやって作ったのだろう?とテーブルで話題になること確実。これは液体窒素を用いて作ったのだが、その具体的な方法は実際に「ハインツ・ベック」に足を運び、サービススタッフの説明を聞きながら確かめ、味わってみて欲しい。ハインツ・ベック 東京都千代田区丸の内1-1-3 日本生命 丸の内ガーデンタワー 1F・M2F 11:30〜15:00、17:30〜23:00 日休 http://www.heinzbeck.jp/
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