プロセッコDOC探訪その2 ビオ・プロセッコの先駆者、ラ・カンティーナ・ピッツォラート
プロセッコの生産地はイタリアのヴェネト州とフリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州にまたがる9つの県で、348のスプマンテ製造業者がいる。年間製造量の半分以上を一社(フレシネ)で製造してしまうスペインのカバと異なり、多くの製造者がいるプロセッコは選択肢も幅広い。一般的にプロセッコは、フレッシュでリンゴのような香りが特徴とされているが、地域や造り手によってかなり違いがある。その中で昨今注目されているのが、ビオ(有機栽培)の生産者だ。

「ラ・カンティーナ・ピッツォラート」は、トレヴィーゾ県ヴィッロルバにある。トレヴィーゾから北へ10キロ余りに位置し、醸造所の屋根に設けられたキャットウオークからは遠くドロミティ山脈が見える。その手前には、目では見えないが、プロセッコ・スーペリオーレDOCGの産地であるコネリアーノがある。コネリアーノは丘陵地帯だが、この辺りはほとんど起伏のない平野部だ。昔から果樹の栽培が盛んな地域で、ピッツォラートも現在のオーナーのセッティモ・ピッツォラートの4世代前から続く果樹農園として、リンゴ、洋梨、桃、いちご、キウイを栽培してきた。そこにぶどう栽培を加えたのは1981年、セッティモが父ジーノの跡を継ぐべく本格的に農園経営に参加してからである。
さらに1985年、セッティモは、有機栽培の移行に着手。今でこそイタリアもビオブームで、スーパーの店頭にあらゆるビオ製品が並び、イタリア人の10人に6〜7人がビオ製品を選ぶとまで言われるようになったが、当時、ビオへの関心はほとんどなかった。セッティモは、自分の祖父がやってきたような、健康で、土と人間の暮らしがストレートに結びついている農業に立ち返りたいと考え、有機栽培を選択した。EUが有機栽培に関する統一法令を制定した1991年に、ピッツォラートは正式にビオの認定を獲得する。
なだらかな平野に広がる畑。
醸造所屋根は太陽光パネルで覆われている。
白い石がゴロゴロ。沖積層の土地は粘土質とミネラルに富む。
イタリアで最も早くビオ生産者の一つとなったピッツォラートがまず売り込んだ先はドイツ。ヨーロッパにおけるビオマーケットの先進地だからだ。2007年には防腐剤である亜硫酸塩を添加しないワイン製造を開始。アメリカ、オランダ、そしてその頃にはイタリアでも取引のリクエストが増加した。そして2012年、動物由来の素材を一切絶つビーガンに向けたワインを発売。これらと同時に、ビオワイナリーとしてのあり方にも改革を重ね、醸造所の屋根には太陽光発電のパネルを設置して全ての電力を自然エネルギーでまかない、醸造所で使用する水は純化設備を用いて100%リサイクルし、パッケージなども可能な限りリサイクル可能なマテリアルを採用している。このように先進的ビオワイナリーであるピッツォラートの現在の販売先は、1位がスウェーデンで全体の6割近くを占め、その後にドイツ、イタリア、ノルウェーが続く。北欧で人気が高いのは意外な気もするが、自然への畏怖と共存の念、そして自然が厳しいだけに健康志向が強いことの証なのだろうか。
Prosecco DOC Brut 2017
プロセッコ、ラボーゾ種の赤ワインを試飲させてもらう。
Il Barba Rossa Malanotte DOCG。エチケットにはセッティモ社長の姿。
ピッツォラートのぶどう畑面積は72ha、年間生産量は500万本、スプマンテ13種、フリッツァンテ5種、スティルの白4種、赤8種、ロゼ1種、デザート
ワイン2種と幅広く造っている。その中でも主力となるのはやはりプロセッコである。カテゴリーはベーシックラインであるプロセッコDOC Extra Dry、プロセッコDOC Brut、コレクションラインのプロセッコDOC Extra Dry。そのほかにフリッツァンテのプロセッコDOC、プロセッコDOC Treviso、プロセッコDOCG Asolo、またコネリアーノ・ヴァルドッビアーデ・プロセッコ・スーペリオーレDOCG Brutもある。どのプロセッコも綺麗な酸と、リンゴや洋梨、あるいは柑橘や白い花を思わせる爽やかな香り、そして何よりもすっきりとした雑味のなさが印象に残る。プロセッコは残糖のせいか時として飲み疲れることもあるが、ピッツォラートのプロセッコはエクストラ・ドライでもそれを感じることはなさそうだ。
数多くのスプマンテやフリッツァンテを造っているピッツォラートだが、土地の伝統という観点から、ラボーゾDOC Piave、マラノッテ・デル・ピアヴェDOCGという赤ワインも手がけている。前者は“怒りっぽい”という意味の名がついたぶどう品種で、その名のとおり、しっかりとしたタンニンと酸が特徴の決して飲みやすいタイプではないが、全体の15%に90日間陰干ししたぶどうを使い、厚みとコクを増している。ヴェネトの冬の伝統料理、特に鴨の煮込みなどに合いそうだ。後者も同じ品種だが、陰干しぶどうの比率を30%に上げ、オークの大樽、バリックで合計24ヶ月熟成。凝縮した果実味もさることながら、リコリスやタバコを思わせる香りが強い、かなり個性的な赤だ。ワイナリーとしては、食後、例えばチョコレートと一緒に、またメディテーションワインとして単独で楽しむことを勧めている。時間が経つにつれ少しずつ香りが移り行くので、秋の夜長に試してみるのがいいかもしれない。

La Cantina Pizzolato
www.lacantinapizzolato.com
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