新進シェフ、マリア・アマリア・アネッダによる伝統と革新の融合。パルミジャーノ・レッジャーノの可能性
毎年11月は、世界イタリア料理週間(11月19日〜25日)を始め、さまざまなイタリア料理関連のイベントが催される。パルミジャーノ・レッジャーノチーズ協会CFPRもパルマよりシェフを招聘し、東京・丸の内のイタリア料理店「トラットリア・クレアッタ」でパルミジャーノ・レッジャーノのハイ・ガストロノミックな料理を披露した。 協会の広報責任者ファブリツィオ・ライモンディによるパルミジャーノ・レッジャーノの歴史や製法の独自性についてのレクチャーの後、広報担当者アンドレア・ロブスキによって、24ヶ月、36ヶ月、84ヶ月の熟成を経たパルミジャーノ・レッジャーノの比較テイスティングが行われた。パルミジャーノ・レッジャーノは12ヶ月の熟成を経て検査をパスすれば販売が可能となるが、12ヶ月熟成で売られるものはほとんどなく、最低でも18ヶ月、大体は22ヶ月または24ヶ月熟成のものが主に店頭に並ぶ。その理由は、パルミジャーノ・レッジャーノの特徴であるチロシンというアミノ酸の結晶が現れ始めるのを待ってから販売する製造者が多いからだ。チロシンの結晶は、時を経るに従って大きくなり、しかもチーズの色味が次第に褐色に近づいていくので結晶の白さがより目立ってくる。アンドレア・ロブスキは、24ヶ月熟成はミルクや溶かしバターの他にナツメグのようなスパイシーな香り、36ヶ月熟成はクルミやヘーゼルナッツの香りと胡椒のような香り、そして84ヶ月熟成はよりスパイシーでチーズの皮の香りが際立つと評した。60ヶ月を超えるものは一般には市販されることはあまりなく、チーズにこだわるレストランや、それこそパルマなど生産地でしかお目にかかる機会はない。旨味の強い長期熟成のパルミジャーノ・レッジャーノはそれだけで存在感があり、料理に使うというよりもそのまま味わうのが一番いい。ちなみに、これら三つのチーズの特徴に合わせて、24ヶ月熟成には赤タマネギのバルサミコ酢煮、36ヶ月熟成にはぶどうのマリネ、84ヶ月熟成には梨のわさび風味のモスタルダが添えられていた。チーズ単独で味わうのもいいが、甘味や酸味、ハーブのような刺激が加わると、チーズ本来の個性をより一層感じられるから不思議だ。 料理を担当したマリア・アマリア・アネッダMaria Amalia Aneddaは、パルマの南、俗にいうfood valleyにあるリストランテ「レ・カーヴ」Les Cavesのシェフである。法律学を学び、優秀な成績で卒業したが、料理への情熱が進路を変更させ、グアルティエロ・マルケージが設立したアルタ・ガストロノミアの料理学校アルマAlmaに入学。そこでも優れた才能を発揮し、卒業を前にしてフランス・ロアンヌのレストランで修業する機会を得、その次にはアラン・デュカスがプロデュースするエッフェル塔のレストラン「ジュール・ヴェルヌ」、さらにシェフとしてパリ、そしてボルドーで活躍。2017年に地元パルマに戻り、パートナーの料理人とともに「レ・カーヴ」をオープンさせた。1990年生まれと若いが、才能溢れる料理人として注目されている。 マリアが披露したのは、先立つ3つのパルミジャーノ・レッジャーノ(84ヶ月熟成は彼女が持参したという)に添えたマリネやモスタルダ、そしてプリモ、セコンド、ドルチェ。プリモは「パッサテッリ、マッシュルームスープに浮かべて(Passatelli in brodo di funghi)」、パルミジャーノ・レッジャーノを生地に練り込むパスタと言えばパッサテッリである。伝統的にはカッポーネなど鶏ベースのブロードに浮かべ、すりおろしたパルミジャーノ・レッジャーノをさらにかけて食べるが、今回は、干し椎茸、乾燥ポルチーニのブロードに4種類のきのこのソテーを加えたという。ポルチーニの強い香りの前では椎茸がやや劣勢だったが、どこか醤油を思わせる風味で全体的に和な一皿。えのき茸を生でトッピングしたところが、日本人には新鮮である。 セコンドは「ホタテのパルミジャーノ・レッジャーノグラタン、パンプキンマスタードムースと赤キャベツを添えて(Capesante gratinate al Parmigiano Reggiano, crema di zucca e cavolo rosso)」、パルミジャーノ・レッジャーノを混ぜたパン粉をかけたホタテ貝柱のグラタン仕立ては、チーズの焦げた味と香りが繊細なホタテの風味によく合うと考えた、とシェフ。かぼちゃのムースはマスタードの辛味はやや弱かったが、香りはよく、甘く濃厚な味わいと赤キャベツの酸味がホタテとコントラストをなし、満足感を高めていた。ドルチェは「温かいマルサラ・ザバイオーネ、ナッツとカルダモンのクランブルとタンジェリン(Zabaione caldo con crumble di cardamomo e mandarino)」。ここにパルミジャーノ・レッジャーノはないが、ザバイオーネはエミリアからロンバルディアにかけての一帯で秋が深まると恋しくなるデザートの定番。みかんのコンフィチュールを加え、ブラックチョコとカルダモンパウダーをアクセントにしたのはシェフのオリジナルである。旨味と風味の強いパルミジャーノ・レッジャーノの後では、このくらいパワフルな味わいのデザートが必要と考えたのだろう。伝統を踏まえ、和の要素を取り入れ、さらにオリジナリティを追求したマリア・アマリア・アネッダのパルミジャーノ・レッジャーノ料理は、くっきりとしたエッジの立った世界で、鮮やかな印象を残したのである。 photo by 中本浩平SAPORITAをもっと見る
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