TOKUYOSHI、2018秋のOMAKASE
やはり料理とは作る人の才能によるのか、3年ぶりにミラノで「TOKUYOSHI」の料理を食べて切にそう思った。10月後半、パスタ世界選手権の後訪れた「TOKUYOSHI」で頼んだのは「OMAKASE」。近年では日本通のイタリア人から「日本料理はOMAKASEが一番楽でいい」という言葉を聞く機会が増えたが、徳吉洋二シェフ経由で広がる日本食に関する単語は相当数あるのではないか。イタリア料理を日本の技術で、しかも現代的な対話で、というのが徳吉シェフのスタイルだが、彼が展開する料理は縦横無尽。アイディアの宝庫で以前よりもさらに切れ味を増し、見た目やコンセプトはもちろん味の追求もさらに進化していた。 「TOKUYOSHI」の料理は、「GYOTAKU」に代表されるように一目見てそれとわかる代表的な料理、いわゆるシグネチャーディッシュが多い。前菜で登場した「Fish & Chips」もそのひとつだろう。これは薄切りにしたジャガイモのフリットとサーモン、イクラをあわせた一口サイズのフィンガーフード。料理に遊び心を取り入れるのも徳吉シェフの特徴の一つだが、これは言うは易し、行うは難し、で一朝一夕にできるものではない。続くミニ・バンズ型の「Pane Burro e Alici」もさまざまなバリエーションがあるが、今回は東洋風のパンであるバンズをイタリア人が好むミニ・パニーノにしたもの。続いて登場したのが「Pizza Capricciosa」だがテイクアウト用のピッツァ・ボックスに入って登場。いざ蓋を開けてみると小さな一口サイズのピッツァが現れるという演出。これはピッツァ生地ではなくライスクラッカーの上にクリームチーズとエディブルフラワーをトッピングした一口サイズの儚いピッツァ。「TOKUYOSHI」の料理の特徴のひとつは食材のさまざまなテクスチャーで楽しませる、特にイタリア語でいうクロッカンテ、つまりはクリスピーな食感を重要視しており、口中で心地よい。その代表がもっとも有名な料理「GYOTAKU」だろう。2018年型の「GYOTAKU ripieno di capesante, gamberi rossi, finocchietto e agrumi」は柔らかく火を通したヒメジの下にホタテ、赤エビそしてフィニッキエットとオレンジなどの柑橘で香りづけし、より地中海に近づけたバージョンだ。そしてパンで作った鱗が見た目もそうだが、何よりもその食感が香ばしく炙った鱗そのものなのだ。一般的にイタリアでは、特に北部イタリアでは鱗や魚の皮は食べないが、和食でいう甘鯛の松かさ揚げのようなアプローチが「TOKUYOSHI」の懐の深さなのだろう。 「White Monotone」はイカとラルドをどちらも極薄切りにしたモノトーンなミニマル料理で一振りの塩が味を際立たせる。「Spaghetti Vongole e Midollo」は太めのスパゲッティにあさりのエキスと、オッソブーコに使う牛の骨髄を加えてミラノ的エッセンスをプラスシタもの。魚介の旨味に動物性の旨味が加わり、それだけでもうなるほど美味しいのだがそれにアルバ産の白トリュフのトッピングが加わった。一口サイズの「Tigella」のあとに登場したのがピエモンテの畑をイメージしたようなカタツムリとナスタチウムの葉などの野菜を使った鮮やかな緑のソースだった。 最後のドルチェは一口サイズのトリュフ味のチョコレートとカボチャとバルサミコのアイスキャンディー、そしてメレンゲにビーツやコーヒーで色をつけた、アルプスの高峰をイメージした「Monterosa」だった。「TOKUYOSHI」の料理は見た目もそうだが、口中で温度やテクスチャー、味の変化を楽しませる重層的な構造のものが多い。各料理とともに出される一口サイズのブロード、クリスピーな食感、そしてなによりもそのアイディアと組み合わせ、プレゼンテーション。イタリア料理を愛好するものからしてみれば「なるほど、その手があったか」と思わせるような仕掛けがいくつも用意されており、しかも徳吉シェフ本人はそうした仕掛けを楽しんでいるような感がある。そしてそれらの料理は決して実験的ではなく、計算され尽くした最小限の食材で最上の味を引き出すことに成功している。進化した「TOKUYOSHI」の「OMAKASE」は楽しく、面白く、そして何よりも美味しい。今のミラノで一件、ファインダイニングの注目レストランを選ぶとするなら「TOKUYOSHI」を選びたい。SAPORITAをもっと見る
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