サルデーニャ!26ペコリーノの本質とは
サルデーニャでペコリーノチーズを食べずにすますことは、サルデーニャの本質を味わわないのと同じことだと思う。160万の人口に対し羊が360万、先史時代より羊飼いをなりわいとした人々の暮らしの礎はペコリーノチーズなのである。ペコリーノチーズにはさまざまな種類がある。羊乳100%で作るもの、牛乳を加えたもの、熟成させないもの、熟成の若いもの、熟成の進んだもの、また、ペコリーノチーズを作った後に残る乳清から作るリコッタもある。羊乳100%で作るペコリーノにはさらに生産者組合が規定し国が承認した作り方に則ったDOP(原産地呼称保護)を冠したものもある。これは原料である羊乳の生産からチーズ製造及び熟成に至るまですべて決められた土地で行われたものに認められる称号で、イタリアはもちろんEU内でも通用する。この“お墨付き”は不可侵なものであり、DOPペコリーノ・サルドという名前は他の土地で作られた似たような製品につけることはできない。 ところで、ペコリーノ・サルドとひとことで言うけれど、場所により作り手により、ほんとうに味はさまざまである。一般的に熟成の若いものは、ほのかな酸味はあるがまろやかでデリケートな味わい、熟成の進んだものは、堅く締まりぴりっと舌を刺激する独特の辛みを持つとされるが、これはあくまでもガイドラインであり、実際には若くても塩辛いものや、熟成したものでも甘みを感じることもある。食べ方は若いものはそのまま、あるいはフライパンなどで焼く、熟成したものはすりおろしてパスタやスープにかけるのが一般的だが、もちろん、熟成したものをそのままワインのつまみにしてもいい。 サルデーニャのペコリーノのなかでも、ちょっと特殊なのがフィオーレ・サルドだ。普通のペコリーノ・サルドが仔牛の胃から取った凝固剤を用いるのに対し、仔羊の胃から取った凝固剤を使い、少なくとも120日熟成させる。バルバージア地方の特産で、質感はかなり堅く、ぴりっと辛い。前菜というよりは食後に、ボディのしっかりした赤ワインと一緒に楽しむチーズである。イタリア本土にはチーズの王様といわれるパルミジャーノ・レッジャーノを始め、それこそ無数にチーズがあり、それぞれがその土地の歴史や特性を全身で表現している。その価値の高さから銀行に預けることもできたというパルミジャーノのような派手な逸話はないけれど、何千年にも渡ってその土地の人々の暮らしを支えたというサルデーニャのペコリーノは、同じく何千年にも渡って辛抱強く生きてきたサルデーニャの人々そのものだという気がする。

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