サルデーニャ!11イッティリ、アグリトゥリズモ・ス・レクレウ
サッサリを迂回し、イッティリという12キロほど南の町を目指す。アグリトゥリズモ「ス・レクレウ」はさらにそこから3キロ南。「テストーネ」とは違って人里離れた辺境ではないので、今度は迷うことなく到着できた。緑の丘にオリーブの木々、その合間に母屋とバンガロー風の客室棟が点在している。母屋の下方には、羊、山羊、豚が飼われている。そして、人なつこくおよそ番犬の役は果たせそうもないシェパードと人嫌いの猫。ところで、「テストーネ」のセバスティアーノになぜ山羊は飼わないのかと尋ねたら、「山羊は跳ぶだろう? どんなに柵を設けていても飛び越えて脱走するから面倒なんだ」と言っていたが、ここでは山羊を飼っている。そして、どういうわけか、その山羊小屋のなかに犬も同居していた。逃亡しないよう見張っているのだろうか。我々が近づくとその犬は柵の隙間から顔を出して愛想を振りまいた。柵の外から内側は伺えないので、最初はそこが犬小屋なのかと思って覗いてみたら、中に山羊が密集していたのでびっくりした。 豚は見慣れぬ人間の接近にこの世も終わりとばかりに鳴き叫び、羊は遠巻きに我々を警戒している。彼らの心の平安のために、シェパードをお供に母屋へと引き上げた。日曜日だったその日は昼間にグループ客の食事会があったとかで、夕方まで大忙しだったそうだが、夜は我々二人のみ。ゆっくり落ち着いて、ピエラ母さん手製の料理を楽しむことができた。まずはガヴィーノ父さん手製の赤ワインで喉を湿らせる。エチケットは彼のポートレート。幸せそうな顔で写っている。肝心のワインはちょっと険のある酸と渋み。手放しで美味しいとは言えないが、素朴な良さはある。「まだ造り始めて2年目だからね。これからだよ」とガヴィーノ。 前菜は自家製の生ハム、パンチェッタ(豚ばら肉の塩漬け)、山羊乳のチーズ、羊乳のリコッタ。そして豆とサルシッチャ(生ソーセージ)のトマト煮と、刻んだ野菜をたっぷり詰めた小型のパイ。パスタは「サ・マリポサス」というトマトソースとクリームソースのカネロニ。マリポサとはスペイン語で「蝶」という意味だが、こんなところでスペイン支配の影響が垣間見えるとは...。ところで、サルデーニャではよく単語の前に「サ」とか「ス」とかがついているのを目にする。「サ」はイタリア語の冠詞の「ラ」(女性形単数)で、「ス」は同様に「イル」(男性形単数)である。「ス・レクレウ」はイタリア語にすると「イル・リストラツィオーネ」、安らぎ、という意味である。 さて、セコンドである。前菜とパスタでお腹いっぱいにならないように実はセーブして食べていた。なぜなら、メインはサルデーニャ名物、プルチェッドゥ(仔豚の半身焼き)だったからだ。マイアリーノ(仔豚)を極太の金串か、伝統的にはコルベッツォロ(セイヨウヤマモモの木)の枝に刺し、ビャクシン(ねずの実のなる木)かオリーブの枝をくべた暖炉でじっくりと焼く。直火の遠火、遠赤外線効果で皮はかりっと中はふっくらジューシーとなる。調味は塩のみ。デリケートな乳飲み仔豚を味わうのに胡椒その他スパイスは邪魔である。焼き上がったら例の木製の板皿にミルトの葉を敷いて肉を盛りつける。余熱でミルトの香りがふわりと立ち上る。シンプル&ストレート、これぞサルデーニャ美味の真髄である。 翌日の朝食はアーモンドと小粒のレーズンがたっぷり入ったビスコッティと、ソパ(葡萄の絞り汁を煮詰めたもの)入りビスコッティと温かいミルク。残ったビスコッティは持っていっていいというピエラに礼を述べながら、ところでガヴィーノは?と尋ねると、朝早く発ったという。なんでも、先進的なアグリトゥリズモを見学するツアーに参加するのだとか。サルデーニャ人はほんとうに真面目で勉強熱心である。小雨そぼ降るなか、我々は南下を開始した。パンの博物館と、籠編みのおばあさんを尋ねる為に。SAPORITAをもっと見る
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