サルデーニャ!2灼熱のカリアリと絢爛豪華な行進の始まり
5月1日祭り当日の朝、例によってマウリツィオが煎れてくれたカフェ・ラッテと自家製パンの朝 食を終え、支度をすませると「では、健闘を祈る」とマウリツィオが送り出してくれた。首にプレスカード、両肩にカメラをぶら提げてフラ・イニャツィオ・ダ・ラコーニ通りに出ると、すでに民族衣装に身を包み、行進の出発をまちわびる列が道路を埋めていた。天気は快晴、すでにじりじりと日射しはきついが絶好の祭り日和である。こちらも気合いが入り、祭りに参加するわけでもないのに腕まくり。まずはサント・エフィジオ教会へ、という時忘れ物にきづいて一度宿に戻る。部屋で一人カメラバッグをごそごそやっていると相方が血相を変えて飛び込んで来た。 「大変、車がレッカー移動されそう!!」というのでマウリツィオと3人通りに出ると、宿の前に停めたレンタカーの前では警官が無線に向かって叫んでいる。この時ようやくきづいたのだが、通りに路上駐車している車は一台も無く、うちの黒いボルボだけが祭りの衣装を身につけたサルデーニャ人たちにとりかこまれ、ぽつんと取り残されていたのである。「今日は祭りだから路上駐車禁止、という貼り紙がしてあるでしょう!!すぐに車を移動して下さい!!」と怒りながらもイタリア語のLei活用、つまり敬語を忘れない几帳面な市警察ポリツィア・ムニチパーレ。 す、すぐに移動します、と冷や汗ながれるこちらの横ではマウリツィオが「当日は朝から駐車禁止だと昨日いったじゃないか」とおろおろしている。そういえばそんなこといってたかも?という記憶が一瞬脳裏をかすめたがそれよりも車を動かさねばならない。今度はマウリツイオが警官に「あなたも宿泊客にはちゃんと徹底しないとだめじゃないですか」と叱られている。とりあえず、と行進待ちのサルデーニャ人をよけながら急発進。祭りの日に車の移動は絶対だめだ、とあれほどマウリツィオにいわれていたのにこんなはめになるなんて。今日はこのまま祭りも見れず、夜まで駐車場を探してうろうろするのか、とあきらめかけた瞬間、目の前に車一台分ぽっかり空いたスペースを見つけた。思いがけないサント・エフィジオの慈悲に感謝して縦列駐車を一発できめ、転げるように車を降りて相方の待つ通りへと戻る。こうしてなんとか祭りに出遅れるという最悪の事態は避けられたのが、この夜マウリツィオにたっぷり嫌みをいわれたことはいうまでもない。 聖なる行進はサン・ミケーレ教会前から始まった。しかしこの華やかさはどうだ。それぞれの小グループが街の名が書かれた垂れ幕を先頭に、老若男女原色の衣装に身を包んで晴れの舞台へと歩き始める。サント・エフィジオの行進には毎年サルデーニャ全土約70の町々から7000人が民族衣装に身を包んで参加する。カリアリ旧市街から出発した行進は3日かけてノーラまで歩き、再びカリアリに戻ってくる。合計4日間、総距離80キロ。聖なる行進とは信仰のために精魂使い果たすまで歩き抜く、苦難の道でもある。 先頭のグループはジェンナルジェントゥ山地のヴィッラグランデ・ストリサイリだ。人口わずかに3700人の町を代表して晴れの舞台に姿を現した女性帯はえび茶色の上着に紫の縁取り。黒いプリーツ・スカートに黒いシルクの頭巾をかぶっているのだが、その頭巾をとめる銀細工は一人一人全て違う。いざ行進にのぞまん、と黒髪の美少女が緊張して大きく息を吸い込んだ時、銀細工が朝日にきらりと光った。 行進はまずサン・ミケーレ教会からサンタンナ教会へと続く緩い坂道を下りてイエンネ広場へと出る。サンタンナ教会裏にあるサント・エフィジオ教会では今頃聖人像が祝福を受け、ス・カッラドーリに乗せられているはずである。この日のためにサルデーニャ各地からやってきた信者の列が続々とイエンネ広場に向かう。次に現れたのはバルバージア地方の中心、ヌオロの一団だ。 女性は赤いスカートに赤いベスト。白い布で頭を多い、黒い前掛けには細かい刺繍。胸元や袖はこれもまたきめ細かい金銀細工で飾り立てられ、思わず息をのんだのは女性たちが一角を曲がった時。彼女たちの背中一面に色鮮やかな花の刺繍が施されていたのだ。子供たちが手をつなぎながらやってきたのはオリスターノ。十世紀から十五世紀にかけて存在したサルデーニャ四王国のひとつ、アルボレーア国の首都として栄えた古都だけにその華やかさはまたひと味違う。 女性たちの純白のブラウスの胸元には金細工と珊瑚の首飾り。折り返された深紅のジャケットの袖元は金糸の刺繍が施され、前掛けはひとりひとり全て微妙に異なるが、全て細かい刺繍で仕上げられている。小麦色の肌にエキゾチックな黒髪の美女が両目を固く閉じ、黄金のロザリオを握りしめながら賛美歌を歌うのを見た時には、その神々しさに魂が震えた。度肝を抜かれたのはサッサリ近郊の小村、オジロの女性たちが登場したときだ。プリーツが施された円形の黒い上着で全身をすっぽり覆うと、その隙間からわずかにのぞくのは顔とつま先だけで、手も足も見えない。まるで最先端のファションショーを見るようなこのアバンギャルドな民族衣装には、沿道の観衆からも驚嘆の声が上がった。その後には頭からつま先まで黒尽くめの修道女のような一団が従った。黒い頭巾からのぞく白い顔立ちはいずれも整った美しい顔立ちばかり。この聖なる行進の主役は、各町を代表する美女たちなのである。 イタリア本土の祭りで目にするルネッサンス風の服装と違い、サルデーニャの民族衣装はプリミティブでアフリカ的なものやアラブ・テイストのものが多い。特にディープ・サルデーニャ、バルバージア地方からは先史時代を思わせる衣装が登場する。黒羊の毛皮を上着にした、一見山賊風の異形の集団はやはりヌオロから来た羊飼いたちだった。SAPORITAをもっと見る
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