サルデーニャ!23カリアリの魚介食堂ダ・バレーナ
「パスタなし、主役は魚」。こんな謳い文句に誘われて、街のはずれの産業道路沿いの食堂にやってきた。店の前に白黒ネコ。店から年配の女性が出てきて慣れた様子でネコにキャットフードをやる。魚料理の店に懐いているけれど、魚をもらっているわけではないらしい、などと思いながら入店する。正面カウンターで二名だと告げると、左手の部屋へどうぞ、と案内された。そこはだだっ広い一間で、テーブルにはカブラスのチルコロ「イル・マーレ・ディンヴェルノ」と同じ妙に明るい配色の紙のテーブルクロスがかかっている。壁には子供が描いたと思しきクジラの絵が何枚も貼ってある。そういえば、この店の名前は「クジラの家」だ。亡きオーナーのあだ名がクジラだったらしい。どうしてクジラかは知る由もないが。 「うちのルールはご存知ですよね。パスタはやってません」とカメリエーレ。もちろん。とりあえず前菜をお願いします、と答える。瞬く間にテーブルにタコぶつ切り、ツナとタマネギのマリネ、ブリッダというツノザメのトマト煮(以上、冷菜)と温かいムール貝の蒸し煮、ゆでた小ぶりのサザエのような巻貝が並んだ。どれもボリュームたっぷりである。我々の右隣の一人客のおじさん、左隣の二人組のおじさんも微妙に種類は違うけれど、5種類くらいの前菜に取り組んでいる。常連になれば前菜も好みを告げるのだろうけれど、何があるかわからないビギナーにはとりあえず見繕って持ってきてもらうほうが楽である。で、もし、隣のテーブルに興味そそられるものがあった場合は、そっとカメリエーレに頼む。しかし、明らかに食べきれない量を目の前に並べるのは、日本人としては忍びない。というわけで、隣のテーブルを横目で見ながら、セコンドのフリット・ミストを注文する。イカ、小エビ、イワシのような小魚に硬質小麦粉をまぶして揚げたシンプル極まりない庶民の味だ。レモンをたっぷり絞って食べる。塩もきちんと決まっている。夢中になって食べていると、気がつけば広い店内はほぼ満員になっていた。男性9に女性1くらいの男食堂である。ついでに外国人率は我々のみのコンマ2%ぐらいか。ともあれ、適度なざわめきと気の置けない雰囲気はいい。ちょっと不便だけれど、カリアリで地元民気分を味わいたい時におすすめの店である。SAPORITAをもっと見る
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