イタリア・サルーミ図鑑8 エミリア地方、サルーミの旅とDOP,IGP

エミリア地方、サルーミの旅

イタリアにはEUの原産地呼称法であるDOP、IGP認証を受けたサルーミが現在41種類存在する。これは食品の品質維持や模倣品を防止するための法律で、イタリアでは中世の頃から食品に対する厳しい規制や保護が行われて来ていた。その発展型が現在のDOP、IGPである。こうした41種類のサルーミのうち、最多13種類を生産するのがエミリア・ロマーニャ州。プロシュット・ディ・パルマDOP、クラテッロ・ディ・ズィベッロDOP、モルタデッラ・ボローニャDOPなど世界的に有名なサルーミの多くがエミリア・ロマーニャ州、特にボローニャからパルマ周辺のエミリア地方で作られており「サルーミ王国」といっても過言ではない。 このサルーミ王国の歴史は今から1000年ほど前、暗黒の中世を経てベネディクト派の修道士たちがポー川流域の湿原を開拓したことに始まる。肥沃な土地では果樹や小麦の栽培が行われ、動物の飼育が行われるようになった。そしてなによりもエミリア地方の湿潤な気候と風がプロシュットはじめ、パルミジャーノ、バルサミコなどイタリアを代表する多くの食材を生み出す素地となったのである。 エミリア・ロマーニャ州都でもある古都ボローニャでは1376年にサルーミ生産業者が集まって塩漬職人組合を結成。ボローニャの名産モルタデッラの歴史上最古のレシピは、1644年の文献にまでさかのぼることができる。また1661年には時の枢機卿が豚肉以外でモルタデッラを作るのを禁止した。これは当時から模倣品が作られていたことを意味し、DOP、IGPに先立つこと500年以上。歴史上初めて食品の生産規定を定めて法律とされている。 プロシュット・クルードの歴史はさらに古く、カルタゴの武将ハンニバルがパルマに入城した紀元前217年、地元住民はプロシュットで歓待したという記録も残っている。時に生ハムの王様と称されるクラテッロは、偉大な音楽家ジュゼッペ・ヴェルディの生まれ故郷ブッセート周辺で作られている。香り高いクラテッロは1735年、史上初めて文献にその名が登場したが、クラテッロをこよなく愛したヴェルディが通ったという酒場はいまもブッセートに残っている。かの音楽家もランブルスコ飲みつつクラテッロをつまんでいたと想像するのは実に楽しいことだ。 モデナ名物のザンポーネが生まれたのは1511年の冬。法王ユリウス2世がこの地方を攻めた時、豚が略奪されるのをおそれた住民は豚を屠ってサルーミとし、豚の足にまで詰め物をしたことがそのはじまりとされている。エミリア地方を旅することはこうしたサルーミの壮大な歴史を旅するのと同じこと。ひとつひとつ味わいながらその物語も同時に味わってみたい。

マッシモ・ボットゥーラのサルーミ料理を味わう 世界一のレストランを支えるエミリア地方の豊かな食材

エミリア地方を代表するレストラン「オステリア・フランチェスカーナ」のシェフ、マッシモ・ボットゥーラはつねづね地元食材へのリスペクトを口にする。パルミジャーノ・レッジャーノ、アチェート・バルサミコ、そしてプロシュット・クルードやモルタデッラ、クラテッロなど多くのエミリア州のサルーミ。20代の頃、モデナ郊外のトラットリアを購入したボットゥーラはザンポーネやコテキーノ、トルテッリーニなどを毎日作っていたと言う。しかし31才の時、アラン・デュカスの元で学んで以来テロワールを強く意識するようになり、また伝統的な食材についてもあらためて客観的に見つめ直すようになった。 「オステリア・フランチェスカーナ」がミシュラン3つ星を獲得するより前、World 50 Best世界一に輝く前からボットゥーラの料理を口にしたことがあるならばそうした食材へのリスペクトとボットゥーラ自身の進化はよく分かるはずだ。デュカスの元を離れてモデナに戻り、「オステリア・フランチェスカーナ」をオープンした当初、評論家の多くはボットゥーラの料理を理解できず「アメリカ料理だ」と評されたこともあったというが、「エスプレッソ」主筆のエンツォ・ヴィッツァリが初めて「オステリア・フランチェスカーナ」で食事したあと、コラムで「もっと早くこの店に来るべきだった」と謝罪した。その後まもなくボットゥーラはミシュラン1つ星を獲得したのである。 ボットゥーラの代表的な料理でエミリア地方の食材を使ったものというと真っ先に思い浮かぶのが「5種類のパルミジャーノ・レッジャーノ」があるが、サルーミを使ったものも多い。2000年にエルブリでのステージを終えてから発表したのがモルタデッラのスプーマを使った「モルタデッラ・パニーノの思い出」だ。ボットゥーラはこれまで遊び心あふれる料理を数多く発表して来たが、この料理もそのひとつ。初めて目の前に登場したその姿に思わず口元がほころび、またその滑らかな舌触りに恍惚となったのを今も覚えている。モルタデッラのスプーマを完成させるのにボットゥーラは理想の脂肪分を調整したモルタデッラを特注したという。 「世界一美味しい」と評される「トルテッリーニ」はブールブランの手法でパルミジャーノ・レッジャーノの上澄みだけを使ったクリームももちろん感動的だが、なによりトルテッリーニを通じ、郷土料理へのリスペクトを感じられる。豚、子牛、モルタデッラ、24ケ月熟成プロシュット・クルード、30ケ月熟成パルミジャーノ・レッジャーノなどを使ったその極上のトルテッリーニは一度食べたら忘れられない。

イタリアのIGP&DOPサルーミ41種リスト

Valle d’Aosta(ヴァッレ・ダオスタ州=2) Jambon de Bosses(Valle d’Aosta) DOP Lardo d’Arnad (Valle d’Aosta)DOP Poemonte(ピエモンテ州=3) Crudo di Cuneno(Piemonte) DOP Salame Piemonte(Piemonte) IGP Salamini Italiani alla Cacciatora(Piemonte) DOP Lombardia(ロンバルディア州=4) Bresaola della Vaitellina(Lombardia)IGP Salame Brianza(Lombardia) DOP Salame di Varzi(Lombardia) DOP Salame d’Oca di Mortara(Lombardia) IGP Trentino Alto Adige(トレンティーノ・アルト・アディジェ州=1) Speck dell’Alto Adige (Trentino Alto Adige) IGP Friulil Venezia Giulia(フリウリ・ヴェツィア・ジューリア州=2) Prosciutto di San Daniele(Friulil Venezia Giulia) DOP Prosciutto di Sauris(Friulil Venezia Giulia) IGP Veneto(ヴェネト州=2) Prosciutto Veneto Berico – Euganeo(Veneto) DOP Sopressa Vicentina(Veneto) DOP Emilia Romagna(エミリア・ロマーニャ州=13) Prosciutto di Modena(Emilia Romagna) DOP Prosciutto di Parma(Emilia Romagna) DOP Culatello di Zibello(Emilia Romagna) DOP Coppa di Parma(Emilia Romagna) IGP Coppa Piacentina(Emilia Romagna) DOP Pancetta Piacentina(Emilia Romagna) DOP Salame da Sugo(Emilia Romagna) IGP Salame Cremona(Emilia Romagna) IGP Salame Felino(Emilia Romagna) IGP Salame Piacentino(Emilia Romagna) DOP Mortadella di Bologna(Emilia Romagna)IGP Cotechino Modana(Emilia Romagna)IGP Zampone Modena(Emilia Romagna)IGP Toscana(トスカーナ州=4) Finocchiona(Toscana) IGP Lardo di Colonnata(Toscana)IGP Mortadella di Prato(Toscana)IGP Prosciutto Toscano(Toscana) DOP Umbria(ウンブリア州=1) Prosciutto di Norcia(Umbria) IGP Marche(マルケ州=2) Ciauscolo(Marche)IGP Prosciutto di Carpegna(Marche) DOP Lazio(ラツィオ州=2) Porchetta di Ariccia(Lazio)IGP Prosciutto di Amatriciano(Lazio) IGP Calabria(カラブリア州=4) Capocollo di Calabria(Calabria) DOP Pancetta di Calabria(Calabria)DOP Salsiccia di Calabria(Calabria) DOP Soppressata di Calabria(Calabria) DOP Sicilia(シチリア州=1) Salame Sant’Angelo di Brolo(Sicilia) IGP

DOPとIGPを知る

DOPとIGPはEUが定める食品に関する原産地呼称法である。日本でも近年農林水産物や、飲食料品の原産地呼称(GI=地理的表示)の法整備が進められているがフランスやイタリアは自国の商品を保護、奨励する傾向が古くから非常に顕著であった。これは厳格な規定を定めることで品質維持や模倣品防止に務め、消費者の信頼をえることが一の目的である。ワインのDOC(原産地統制呼称)によく似ており、イタリアでは中世からこうした食品の保護が行われて来た。2016年12月現在DOP、IGPにSTG(伝統特産物保証=ピッツァ・ナポレターナなど)を加えた合計288品目の原産地統制呼称食品がある。 DOP(Denominazione Origine Protetta) 原産地保護呼称。伝統的食品を保護するため食品の生産、加工、仕上げの全てがある特定の地域内で行われる食品に与えられる。例えばプロシュット・ディ・パルマDOPやクラテッロ・ディ・ズィベッロDOPの場合はパルマ、ズィベッロという地名を表示することが出来る。 IGP(Indicazione Geografica Tipica) 地域保護表示。DOPに準じ、食品の生産、加工、仕上げの少なくとも一工程がある特定の地域内で行われる食品に与えられる。例えばポルケッタ・ディ・アリッチャIGPやザンポーネ・ディ・モデナIGPの場合はアリッチャ、モデナという地名を表示することが出来る。  

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