極上のクラテッロを味わうリストランテ・アル・ヴェデル
パルマの北約10km位置する「リストランテ・アル・ヴェデル」Ristorante Al Vedelは、クラテッロ生産者「ポデーレ・カダッサ」Podere Cadassaが経営する高級リストランテだ。ベルゴンツィ家が代々経営する「ポデーレ・カダッサ」は、ポー川右岸のバッサ・パルメンセに位置し、クラテッロ・ディ・ズィベッロの生産者としては最も東側に位置している。ここでは年間7000本を生産するクラテッロの他にフィオッケット、スパッラ・クルーダ、スパッラ・コッタ、ストロルギーノなどのサルーミ類を生産している。「アル・ヴェデル」ではそうした自家製サルーミ類を中心としたエミリア地方の美食の数々が楽しめるのだ。2月の日曜日に訪れた「アル・ヴェデル」は霧煙る寒い日であり、パルマから離れているにも関わらず予約時間の13時に扉を開けるとすでに多くの客が集まり、メニューを決めた頃にはほぼ満席になっていた。しかも決して素朴な田舎のトラットリア、ではなくパルマはじめ近隣から着飾った家族連れが上質な食事を楽しみに来る、そんな店なのだ。 まず頼んだのが自家製の「ラルド、黒豚のサラミとポレンタ」と「クラテッロ・ディ・ズィベッロDOP」だ。「本来ラルドはこの地方の食べ方ではないのですが」とカメリエーレはいうもののコロンナータを思わせるようなローズマリーが効いたラルドは上質で甘く、一方黒豚モーラ・ロマニョーラ種を使ったサラミは野趣あふれるワイルドな味わい。しかしいきなり強烈なパンチをくらったのは3種類のことなる自家製クラテッロだった。もっとも若い16ケ月は若々しいプロシュット・ディ・パルマのように芳しく甘く、24ケ月は肉質もしまって塩も回り始めこれぞクラテッロという芳香を放つ。そして36ケ月熟成ともなるとプロシュットとは全く別物。よりしまったドライな食感と噛みしめるほどに旨味がほとばしるその味わいは、熟成の結果たどり着いた旨味の極致である。 ポー川流域は米どころでもあるので、地元のヴィアローネ・ナノを使った「黒豚のリゾット」は豚ひき肉とパルミジャーノ、セロリで味付けし、プレッツェーモロの素揚げをトッピングした上質なリゾット。リゾットの代表種カルナローリに比べると「ナノ」というくらい極小品種であるヴィアローネ・ナノはおそらくは調理時間も早いのだろう。ミラノであるような、いわゆるアル・デンテ過ぎるリゾットは一般的にも好まなれないと思うのだが、このリゾットは最適の調理加減でとてもよかった。 「アマリッリ」という手打ちパスタはクラテッロとタッラスコというタンポポを詰め物にしたもので、柔らかい子牛のラグーを思わせるクラテッロの旨味がたまらない。聞けばカビが強すぎたり、外見がいまひとつなためDOP認定されなかったクラテッロは、こうしてラグーなどで自家消費されるという。それもまた食材を決して無駄にしないどころか、逆に美味しい料理を生み出すイタリア人の知恵だ。 「自家製コテキーノ」はとかく脂が強くなりがちなコテキーノだが、これは脂を最小限にとどめ、湯煎で立てた甘いザバイオーネとタマネギの酢漬け、そしてオリーブオイルとバターをきかせたジャガイモのピューレとともに登場した。酢漬けがコテキーノにあうのはもちろんだが、甘くこってりとしたザバイオーネもまた意外とあうのだ。パルマ伝統のドルチェ「ドルチェ・ドゥケッサ 公爵夫人のトルタ」はヘーゼルナッツとチョコレートを層にしたセミフレッドでザバイオーネのジェラートともに食べる冷たいドルチェだった。 「アル・ヴェデル」での食後の最大の楽しみは、実はクラテッロが吊るされているカンティーナ見学にある。常時7000本が眠る熟成庫は地下にあるため年間を通じて温度と湿度が一定に保たれており、クラテッロの熟成には最適な環境になっている。これはバッサ・パルメンセというテロワールのみがなしうる熟成の奇跡で、他の土地ではクラテッロは作れないという。「ポデーレ・カダッサ」で見たクラテッロの秘密はまた別の機会に書くとして、パルマを訪れた際は一足伸ばして「アル・ヴェデル」での食事をすすめたい。きっと今まで体験したことのない極上のクラテッロと、伝統料理を高度に洗練させたエミリア地方の美味が楽しめるはずだから。SAPORITAをもっと見る
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