パレルモの老舗、ブロード親方ことMaestro del Brodo
パレルモにある市場の中でも、歴史的にも位置的にもつねに中心的存在だったヴッチリア市場は時代の趨勢を反映してか、訪れるたびに規模縮小が進んでいて複雑な気分になる。その昔は市場の中心部にあった廃墟のようなおそろしげなレストラン「上海」もいまはないし、路上の揚げ物料理店「ズィア・ピーナ」もなんと改装工事に入っており、ここ数年で人気が出たのか小ぎれいに改装してリニューアルしそうな雰囲気だった。とはいえ、市場の中で昔から存在するレストランもいくつかあるがその筆頭は「マエストロ・デル・ブロード」だろう。久しぶりに訪れてみると外見、内装も新しくなっていたものの料理はほとんど変わっていなかった。Gamberi marinati
シチリアでは南部の港町マザーラ・デル・ヴァッロの赤海老「ガンベロ・ロッソ」が有名だ。これはそれに近い赤さだがいわゆる普通のガンベロで注文が入ると店主がやおらショーケースにエビを取りに行き、厨房の奥で殻をむいてレモン、オリーヴオイルの味付けで食べさせてくれる。Antipasti della casa
その昔はブッフェ・スタイルでさまざまなシチリア風前菜を楽しめたのだが現在はブッフェではなくご覧のような盛り合わせ。手前から反時計回りにナスのインヴォルティーニはパン粉、松の実、干しぶどうで作った詰め物をを揚げたナスで巻き、パン粉をかけてオーブン焼きするシンプルだけど非常に手の込んだ料理。ナスはシチリアを代表する食材、とはよくいわれるが今回パレルモの市場を歩いていても揚げたナスをパニーノにして食べさせてくれる屋台もあったほど。この濃厚な赤はおそらくトマトを天日干しして作るシチリアのトマト・ペースト、エストラット・ディ・ポモドーロ(あるいはコンチェントラート・ディ・ポモドーロとも、シチリア語ではLu strattu)だと思う。ナスのインヴォルティーニはもう一種、白ナスと中にリコッタを詰めた白いバージョンもあった。イワシのベッカフィーコは定番のパン粉、松の実、干しぶどうの詰め物でローリエをレモンの香りが爽やか。ナス、トマト、タマネギ、松の実で作ったカポナータは甘みも酸味もマイルド。ぽてっとしたアマリカンドックのような、重曹を入れたような衣はニンジンのフリット。ちなみに下の写真がバッラロ市場で見つけたエストラット・ディ・ポモドーロ。キロ10ユーロなので500g買ってもわずかに5ユーロ。カッペリと並び、シチリアの市場で見つけたら必ず買いたい食材のひとつだ。Bucatini con sarde
パレルモを代表する味のひとつ、イワシのパスタ。これもイワシと干しぶどう、フェンネルにエストラット・ディ・ポモドーロを加えた濃厚味。写真を見てもわかるがブカティーニはややゆるめで、いつも思うことだがブカティーニに関してはアル・デンテではなく少しオーバーボイルのほうが食べやすく、ソースと一体となって美味しいと思う。ローマでは針金のようなバリバリのブカティーニを好むこともあるが、やはり茹で加減は料理によって適材適所、つねにアル・デンテが良いとは限らない、とブカティーニを食べるたびに思う。 フィレンツェに戻って昔の写真アーカイブを探していたら2004年のマエストロ・デル・ブロードの写真が出てきた。店の外観も今よりシンプルで、これぞトラットリアという味のあるもの。ちなみに店名にある「マエストロ・デル・ブロード」とは、1880年の創業以来父から息子へと受け継がれた秘伝のブロードのことで、この店は魚介料理もいいが、実はボッリートなどの肉料理が名物なのだ。季節を問わずつねにメニューにあるのは子牛のラグーのパスタPasta fresca al ragu di vitelloやジャガイモと牛肉のソースSpaghetti alla Glassa、そしてセコンドには茹でた牛肉にオリーヴ、アンチョビとともに食べるサラダ仕立てのManzo lesso semplice all’insalataや名物のパレルモ風肉じゃがことManzo lesso con patate a spezzattinoがある。2004年にもやはりこのパレルモ風肉じゃがを食べていたが、ブロードをたっぷりと吸ったジャガイモがとにかく美味しくて、その後真夏に訪れた時もこの料理を注文し、汗かきながら食べたことがあった。Spaghetti alla Glassaはまだ食べたことがないのだがおそらくこのパレルモ風肉じゃがにスパゲッティを和えたものだと思われる。次回パレルモを訪れたなら必食、の料理のひとつだ。 もうひとつ、備忘録としてその昔「シチリア美食の王国へ」で、近所にはよく似た店名のレストランがあるので間違えないように注意、と書いたのだが先日通りかかったらその店もまだ同じ場所にあった。古い店が変わらずに残っているのを見るのは、どんな街を訪れてもやはり嬉しいものである。SAPORITAをもっと見る
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