ヴェネツィア酒場紀行4 アッラルコとOsterie d’Italia
スローフード協会が発行する「Osterie d’Italia」は郷土料理を中心に出すトラットリアや、地元産のサラミやチーズなどの食材、ローカルワインを揃えたワインバーをオステリアとして一括して評価、イタリアで唯一無二の信頼できるオステリア・ガイドである。イタリアのガイドブックはミシュラン、ガンベロ・ロッソなど本来写真は皆無で文字だけなので、読み解くことでまだ見知らぬ料理への想像を掻き立ててくれる。中でも「Osterie d’Italia」がユニークなのは、各州ごとに担当するライターが決まっていて、彼らの視点で街ごとに独自の特集ページが設けられていることだ。例えばエミリア・ロマーニャならピアディーナ特集として25件、フィレンツェはトリッパ屋台が12件、ローマはローマ風切り売りピッツァが12件となかなか読み応えがあるのだ。ところがヴェネツィアのバーカロにいたってはわずか6件、レストランも4件しか掲載されていない。10年ほど前はバーカロも20件近く掲載されていたし、レストランもなかなかシブい地元の人しか行かないような店が多く掲載されていたのだが、ここ数年はどうも情報不足な感が否めない。2019年度版で掲載されているのは以下の通りだ。Bacaro6件
Al Portego All’Arco Cantinone gia Schiavi Cichetteria Venexiana da Luca e Fred Codroma MascaretaTrattoria4件
Ca’ d’Oro (Alla Vedova) CoVino Dalla Marisa La Bitta 上記リストの中で、昔から掲載されている古くていい店を選ぶならAl Portego,All’Arco,Cantinone gia Schiavi,Mascareta, Ca d’Oro(Alla Vedova)だろうか。かつては常連だったDo Spade, Do Mori,Vini da Gigio, Al Mascaron, Al Testiere,Bancogiroなどもいつの間にか姿を消した。上記10件のセレクトにはやや疑問もあるが、このリストの中から最もいいバーカロを一件選ぶとするならAll Arco アッラルコだろう。 アッラルコは朝8:00オープン、昼すごまでの営業なので市場で一仕事終えた男衆や、配達途中の男、近所の旦那衆などが朝からふらりと立ち寄っては一杯ぐいっと飲み、カウンターに小銭を置いてさっさと立ち去ってゆくという、実に格好よい飲み方をする男たちが訪れる店だ。朝10時、まだ昼の仕込みの真っ最中の「アッラルコ」でワイン飲みつつそうした地元常連客のふるまいをみていると、他の都市でいうバール使いにとても似ている感じがする。社交をかねていつもの店に立ち寄り、常連たちや店のスタッフとひとことふたこと、近況を語り合う。ただ飲むのはエスプレッソではなくオンブラと呼ばれるハウスワイン、それがヴェネツィアの社交なのだろう。 「アッラルコ」では家族経営で、往年のソフィア・ローレンを思わせる実に格好良い母君がレジに立ち、ワインを注ぎ、客をさばく。息子はスタッフとともにチーズやサルーミの準備、日替わりのクロスティーニの準備に余念がない。しかし狭いカウンターの中にはトースターと小さな火口しかないのに、実に味のあるつまみを用意してくれるのだ。この日はまだ仕込み中だったのでプロシュット・コットとチーズをなにか、と頼むと実に丁寧にハムをスライサーにかけ、チーズを切り分けてくれる。「フリウリのポルケッタとラッテリア、ペコリーノ、ゴルゴンゾーラです」と盛り込みにしてくれたのだがどれもコンディションがよく、実に美味しい。目の前で仕込みを終えたばかりのバッカラ・マンテカートも美味しい。いくつもバーカロを回ってみるとチケーティの仕込みに命をかけているかのような店や、ワインのセレクトに情熱をかけている店などスタイルはさまざまだが、やはり「アッラルコ」でチケーティを仕込み続けている光景を見ると、昼時は常に混雑、注文するにも時間がかかることを知りつつも、どうしても立ち寄りたくなるのはわたしだけではないはずだ。All'Arco Sestiere San Polo 436, 30125 Venezia, Italia +39 041 520 5666
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