ローマのモダンビストロ「レトロボッテガ Retrobottega」
同じローマにある2つ星「イル・パリアッチョ Il Pagliaccio」で働いていた際に知り合った2人、アレッサンドロ・ミオッキ Alessandro Miocchiとジュゼッペ・ロ・イウディチェ Giuseppe Lo Iudiceがタッグを組んだ「レトロボッテガ Retrobottega」は2015年にオープン。ローコストかつハイパフォーマンスというコンセプトはいわゆるネオ・ビストロ、あるいはモダン・ビストロとも呼ばれ、現代イタリア料理界のメインストリームとなっている。そして2018年には早くも店内を全面改装し、3箇所あるカウンターキッチンで働く料理人たちの仕事ぶりが見えるインテリアとなった。今回座ったのは中央にある10人がけの相席大テーブル「ソーシャル・テーブル」で、引き出しにナイフ・フォークが収納されているユニークなスタイルだった。この日頼んだのは7品からなる「レトロボッテガ体験 Esperienza Retrobottega」という75ユーロのコースだ。

Tartara di barbabietola e crema di parmigiano

最初に登場したのは牛肉の代わりにビーツを細かくダイス切りにし、イチゴに見立てたタルタル。ヴィネガーの酸味とビーツが持つ大地の香りにパルミジャーノ・ソースでコクを加えてある。

Crepinette di foglie, cardi e ravanelli

「野菜のミニクレープ=クレピネッテ」という2つめの前菜も野菜中心で、ローマでよく食べられるチコリやカルドなど、野原で見かける野菜をソテーし豚の網脂で包んでローストした料理。春野菜ならではの苦味と二十日大根の辛味、網脂の脂質、そしてソースは牛骨を長時間煮込んだイタリア式フォン・ド・ボー、濃厚なフォンド・ブルーノだ。

Animelle e puntarelle

アニメッレ・エ・プンタレッレという言葉遊び。アニメッレこと子牛の胸腺肉はソテーにしてローマでよく食べられる、ローマ人が好きなクイント・クアルトのひとつだ。味付けは濃厚なフォンドブルーノだが火入れは柔らかく、添えられた濃厚かつ酸味があるペスト・ディ・ポモドーロとともに食べる。添えられているのはこれもローマを代表する野菜プンタレッレ。

Risotto, mosto di malto e Speck affumicato

最初のプリモ・ピアットはウイスキーの原料となる大麦を発酵させて作ったモルトを煮詰め、ブロードにしたリゾット。小粒な米はおそらくヴィアローネ・ナノ、芯はしっかり残っており、独特の酸味と発酵香は味噌のようなビールのような後味。これにスペックのスモーキーフレーバーを加えたシングルモルトのような、ロホビールのような大人の味のリゾット。

Bottoni di lingua, prezzemolo, pepe verde

2番目のプリモはコースのハイライト。柔らかく低温調理した牛タンを詰め込んだボタン型の手打ちパスタ「ボットーニ」は滑らかかつ脂質に富み、プレッツェーモロを加えたバターとフォンド・ブルーノ、そしてグリーン・ペッパーの泡。グリーン・ペッパーの香味と絡みが心地よく、味わうと確かに胡椒たっぷりのローマ風パスタとなる。フォンドブルーノはイタリア料理がヌーヴェル・キュジーヌの影響を受けた80年代にはよく使われたが、トマトやEVOオイル、魚介類中心のヘルシーな地中海料理が中心となった2000年代は姿を消していた。しかしおそらく調理器具の発達のせいか、最近はこの古典的なソースをあえて使用しているレストランもよく見かけるようになった。「レトロボッテガ」の味の構成はこのフォンドブルーノをメインに薫香や酸味、辛味などでアクセントを加える組み立てになっている。

Piccione, tamarindo e topinambur

メインは鳩のソテー。タマリンドを塗りつつ焼いた鳩は醤油の照り焼きを思わせる香ばしい香りで、皮は鶏のようなゼラチン質だったが中はロゼ色。添えられているのはトピナンブール=キクイモとナスタチウム。

Cannolo al limone

そしてデザートは半分サイズの「メッツォ・カンノーロ」で中には柔らかいレモンクリームが詰めてある。手前はキャラメルソースとメレンゲで、こぼれたカンノーロやレモンクリームを混ぜながら食べるという遊び心ある仕掛け。 これらすべての料理はカウンターでアレッサンドロが仕上げ、すぐに目の前のソーシャルテーブルに届けられるシステム。料理はハイレベル、プレゼンテーションは新しくて洗練されているが、あちこちにローマ伝統料理的メッセージが顔を出す。そうした「レトロボッテガ」からのメッセージを探りつつ食べるのは楽しい作業だ。しかも昼休み無しのノンストップ営業というのもイタリアのタパスバー的で、イタリアには珍しいスタイルで、自分たちが本当にやりたいこと、好きなことをやっている、という感覚がひしひしと伝わってくる。現代のレストランに本当に必要なのはなにか?ということをあらためて考えさせられる貴重な店。 www.retro-bottega.com Via della Stellata,4 Roma Tel06-68136310 12:00〜23:30(月のみ18:00〜)無休

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