温故知新のヴェッキア・ベットラ@Firenze
フィレンツェ中心部から少々離れたとこにある老舗トラットリア「ヴェッキア・ベットラ Vecchia Bettola」を初めて訪れたのは1995年だったからすでに24年前になる。当時まだネットでのレストラン情報などなかった時代、頼りになるのは一部日本の雑誌のイタリア特集とミシュラン、そしてすでに存在していたGambero Rossoだけだった。相席、イタリア語のみ、そしてなによりシンプルなトスカーナ料理というそのスタイルに打たれ、「ココ・レッツォーネ」「ソスタンツァ」と並ぶ最もフィレンツェらしい店だと、今も思っている。時は流れてその後幾度となく訪れているが、相変わらずイタリア人、外国人観光客で賑わっており、料理も基本メニューは変わらない。 「ペンネ・アッラ・ヴェッキア・ベットラ Penne alla Vecchia Bettola」は70年代を彷彿とさせる看板メニューであり、その昔客に無償で配っていたレシピ集では作り方も公開されていた。まずペンネは溝のある「リガーテ」ではなくつるつるの「リッシェ」。フィレンツェの老舗ではなぜかこのパスタを好む店が多く「ソスタンツァ」のバター・パスタこと「パスタ・アル・ブッロ Pasta al burro」もやはりこのペンネ・リッシェだ。ソースはにんにく、唐辛子、裏ごししたパッサート・ディ・ポモドーロ、パルミジャーノ、そしてウォッカと生クリーム。70年代風に感じるのは生クリームが入っているから。最近のイタリア料理のレシピではパスタに生クリームを使うことはごくまれだが、かつては3Pパスタとも呼ばれた「生ハム、生クリーム、グリーンピース Prosiutto, panna, piselli」やサーモンクリーム・パスタなどが一斉を風靡した時代があった。そしてこの2つのパスタには大抵フェットゥチーネやファルファッレが多用されていたことも懐かしい思い出だ。 「ペンネ・アッラ・ヴェッキア・ベットラ」はウォッカを使うことでトマトソースにコクが加わりなんともいえぬ後引く味となっている。いつ食べても飽きない味、時代を超えた永世定番を作り出すことに成功したトラットリアは、後世になってもつねに愛されるのだ、とこのペンネを食べるたびに思う。さらに「カルチョーフィとウサギのフリット」「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」「プンタレッラのサラダ」「スキャッチャータ・アッラ・フィオレンティーナ」を注文する。以前、ビステッカを注文した際にカメリエーレが「アメリカ人にレアのビステッカを出したらウェルダンにしてくれといわれて弱ったよ」と言っていたことも懐かしい思い出だが、その彼もいまだ現役でサービスを続けている。 店名の「ベットラ」とは食堂という意味、つまり「ヴェッキア・ベットラ」とは「古い食堂」という意味だ。東京にその名を冠した有名なイタリア料理店があるが、昨年同店のオーナーシェフと大手町の「ハインツ・ベック」でご一緒したことがある。その際「ヴェッキア・ベットラ」はまだある?と聞かれたので、はい、いつも満員で繁盛しています、とお答えしたところとても満足そうにされているように見えた。そういえばフィレンツェにはかつて西麻布にあった「ダ・ノイ」の同名店もあったし、同じ西麻布にあった「チブレオ」も本店はいまもフィレンツェにある。20代の頃、六本木にあった「ラ・ゴーラ」でそういうイタリア料理昔話をよく聞かされていたな、と思い出しつつヴィンサントを一口。最近老舗料理店で食事していると、やけに昔のことを思い出すようになったのは年齢のせいか?
Tel+39-055-224158  日月休

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