苦い米とリゾ・アッラ・ピロータの衝撃
「苦い米 Riso Amaro」という1949年制作のイタリア映画を覚えている人はいるだろうか?これはシルヴァーナ・マンガノが米を収穫する季節労働者「モンダリーゾ Mondariso」として働くイタリア版女工哀史の悲しい話なのだが、その映画には日本のような水田のシーンが何度も出てくる。初めてこの映画を見た時は「ほう、イタリアにもこんなに水田があるんだ」と思ったものだがその収穫風景は日本とは全く違っていて牧歌的というよりはプロレタリアート的。モンダリーゾとして雇われた若い女たちは、満員電車に寿司詰めにされてヴェルチェッリにやってくると、来る日も来る日も米を収穫しては大部屋で休むという生活を送っている。労働の対価として賃金がわりに米を受け取るのだがラストシーンにはその米が象徴的な役割を演じるので興味ある方は一度見ていただきたい。 映画の舞台となったのはロンバルディアとピエモンテの州境に近い米どころヴェルチェッリであり、ミラノ周辺部でリゾットなどの米料理がよく食べられるのはこうした米の生産地が近くにあるからだ。一方、同じポー川流域の米どころとしてヴルチェッリほどではないにせよ有名なのがマントヴァ東部。ここはガルダ湖に生まれ、マントヴァ周辺を経由してポー川に注ぐミンチョ川左岸地区であり、ヴェルチェッリの名物料理が「パニッサ」ならばミンチョ川左岸地区の伝統的米料理は「リゾ・アッラ・ピロータ Riso alla pilota」だ。 「ピロータ」とはイタリア語でパイロットを意味するがこの場合は全く関係なく、米を脱穀する際に使用する伝統的な道具「ピーラ Pila」に由来する。そして「リゾ・アッラ・ピロータ」最大の特徴は、ブロードで炊き上げてチーズやバターでマンテカーレする一般的なリゾットを違い、米を茹でてから具材とあえることである。 マントヴァから東へ15kmほどの位置にあるカステル・ダリオ Castel d’Arioには1940年創業の老舗「ロカンダ・アル・コンメルチョ Locanda al Commercio」があるが、ここでは本物の「リゾ・アッラ・ピロータ」を味わうことができる。まず大鍋で米を茹でたのち、バターで炒めたマントヴァ産豚のサルシッチャ「ピスト Pisto」を加えチーズであえれば完成。これはピラフのような炊き込みご飯のような米料理で、リゾットのような粘り気ある食感とは異なりさらさらとしている。さらにオプションとして豚のスペアリブをカリカリになるまでローストした「プンテル Puntel」を乗せてピアットウニコとして食べるのが米農家の伝統的な食べ方だ。 もうひとつ、ミンチョ川の川エビの素揚げを使ったバージョンの「リゾ・アッラ・ピロータ」もあるが、これは見た目通りクリスピーな川エビの素揚げとさらさらの米のコンビネーションで、これまたいくらでも食べられなそうな料理。ロカンダ・アル・コンメルチョにはマントヴァ名物カボチャのトルテッリも馬肉のストラコットもあるのだが、ここはひとつマントヴァ産ランブルスコ飲みつつ「リゾ・アッラ・ピロータ」のみをじっくり食べてみるというのはいかがか。 www.locandacommerciorolli.it Piazza Giuseppe Garibaldi, 40, 46033 Castel D’ario MN Tel 0376-660138SAPORITAをもっと見る
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