アブルッツォワイン紀行1 Cataldi Madonnaとアロスティチーニ

アブルッツォの州都ペスカーラから内陸ラクイラ方面へと車を走らせること約1時間強。標高531mの小村オフェーナにほど近い場所にあるのがワイナリー「カタルディ・マドンナ Cataldi Madonna」だ。山岳部が多いアブルッツォにおいて「カタルディ・マドンナ」はちょうどグランサッソの腕に抱かれているかのように南西部に向けて開いた平地に面しており、そのグランサッソからはヨーロッパ最南端に位置する氷河の冷涼な空気が流れ込む。夏でも朝晩は肌寒さを覚えるほどの寒暖差が何よりの特徴だ。 創業は1920年の家族経営。現在は3代目ルイジから4代目のジュリアへとゆるやかな移行が進行中だが「カタルディ・マドンナ」の名前で瓶詰めを始めたのは1975年のこと。現在所有する31.4haの畑は標高320から440mの間に位置しモンテプルチアーノ、ペコリーノ、トレッビアーノを生産する。1996年からはマイナー品種ペコリーノ100％の生産を始めたが、これはアブルッツォのワイナリーとしては最も早い取り組みだった。かつてはレモンのようといわれることもあったほど酸が際立つペコリーノはエノロゴ、ロレンツォ・ランディとルイジの取り組みによって、単一品種ワインとして注目を集め始める。 2010年からはペコリーノ100％「ジュリア Giulia」の生産を開始。これは4代目にあたるジュリア18才の誕生日を記念してのリリースだった。パッションフルーツやグレープフルーツを思わせるフレッシュな香りとバランスがとれた心地よい酸が特徴。一方「トレッビアーノ・ダブルッツォ Trebbiano d’Abruzzo」は生き生きした酸と白い花の香り、ふくよかなミネラルが印象的だった。モンテプルチアーノから作るロゼ「カスタルディーノ Castaldino」は淡い色合いで野いちごやオレンジの葉のようなニュアンス。これらを飲みつつ揚げたてのピッツァ・フリッタに地元産プロシュットをあわせてのアペリティーヴォ・タイムが始まった。まるでエミリア地方のニョッコ・フリットを思わせるピッツァ・フリッタはより豊満かつ重厚。キリリと油を流してくれるペコリーノの酸がなんとも心地よかった。 アペリティーヴォを終えた後はラクイラ方面へと車を走らせること約30分。標高1450mまで一気に上り、ローマ時代からローマとアドリア海を結ぶ交通の要所に位置したロッカ・カラッショ Rocca Calascioへと向かう。要塞からは山頂に雪を抱く2000m級の山々が連なるグランサッソも見えるのだが目当てはアブルッツォ風山小屋スタイルのレストラン「リフージョ・デッラ・ロッカ Rifugio della Rocca」なのだ。5月でも時には暖炉に火を灯すほどの高地にあるこのレストランでは伝統的な山のアブルッツォ料理が堪能できる。 まずは地元産のレンズ豆、白インゲン豆、グランチャーレ、硬質小麦のパンが入った「ズッパ・ミスタ」これはなんとも滋味深い山の味で、素朴な美味しさが体の隅々まで染み渡る。これにあわせたのは「チェラスオーロ・ダブルッツォ・ビオ Cerasuolo d’Abruzzo BIO」で「カスタルディーノ」とは異なる芳醇なロゼ。完熟したイチゴやアーモンドを思わせる香りで余韻が長い。 「コストレッタ・エ・ポレンタ Costletta e polenta」は地元産のあらびきトウモロコシで作るポレンタに柔らかくローストした豚スペアリブ、濃厚なトマトソースという組み合わせのピアット・ウニコ。これには「モンテプルチアーノ・ダブルッツォ マランドリーノ・ビオ Montepulciano d’Abruzzo Malandrino BIO」を。伝統的セメント桶で3週間かけて発酵させたのち、ステンレスタンクでマロラティック発酵を行ったビオワインだ。ダークチェリーを思わせる芳醇な香りと複雑な味わいが山の料理を引き立ててくれる。 歓声とともに最後に登場したのが、これもアブルッツォ名物の羊の串焼き、アロスティチーニと「カタルディ・マドンナ」の最上位ワインである「モンテプルチアーノ・ダブルッツォ・トニ 2015 Montepulciano d’Abruzzo TONI 2015」これはステンレスタンクで発酵させたのちバリックで12ケ月熟成。さらに18ケ月瓶内熟成させたのちリリースされる長期熟成タイプのモンテプルチアーノだ。濃厚なルビー色のワインはミントやシナモンなどのスパイス香や影干ししたかのような凝縮感。非常にパワフルでモンテプルチアーノの底力を体感させてくれるような一本。野趣あふれるアロスティチーニとトニを交互に味わうと止まらなくなる、無間地獄のような黄金の組み合わせだった。 #wearedabruzzo #vinidabruzzo