シチリア料理の現在形3 二つ星の実力 Duomo@Ragusa Ibla
すでに16年前になるが「シチリア美食の王国へ」の取材でシチリアを旅していた2003年冬、いま新しくて面白い店があるからと連れて行ってもらったのが「ドゥオモ Duomo」だった。その時のエピソードは「シチリア美食の王国へ」に詳しく書いてあるので興味がある方は読んでみてほしい。シェフ、チッチョ・スルターノは翌2004年にミシュラン1つ星獲得。2006年には2つ星とまさにシチリア料理新時代を象徴するかのような勢いで、イタリアを代表するシェフとなった。 2000年ごろまでのシチリアといえばいまはすでにないが「イル・ムリナッツォ Il Mulinazzo」のニノ・グラツィアーノや「バイバイ・ブルース Bye Bye Blues」のパトリツィア・ディ・ベネデット Patrizia di Benedetto」、あるいは「ファットリア・デッレ・トッリ Fattoria delle Torri」のベッペ・バローネ Beppe Baroneらがシチリアを代表するシェフだったが、チッチョ・スルターノ登場以降は改めてシチリア料理が持つポテンシャルを世界中が広く知ることになったのだ。今回の訪問はそれ以来、実に16年ぶりになるがその間「ドゥオモ」は数回の改装を重ねシチリアを名実ともにシチリアを代表する風格あるレストランとなっていた。 まずオリジナル・カクテルが揃う食前酒からは「BARNUM」これはHendrick’s Ginをベースにフェンネルのエッセンス、Fever Tree Ederflowerトニックウォーター、レモン、フレッシュ・フェンネルなどで味付けしたシチリア風ジントニック。すると間も無くフィンガーフード的アミューズが登場する。 Oliva tonda iblea con pistacchio di Raffadali salvia croccante e finto nocciolo 南シチリア、特にDOPモンテイブレイに使われる品種「トンダ・イブレア」の中にオリーブの種をもしたピスタチオが隠されている。 Tartelletta con insalata di cedro チェードロのタルトレット Pomodorino di estratto di pomodoro エストラット・ディ・ポモドーロで作ったポモドリーノ Salmoriglio e carpaccio di carne “Alleva Bio” サルモリッリオ Salmoriglioとはレモン、EVO、オレガノ、塩コショウを乳化させたソースで通常はカジキとよくあわせるが、Alleva Bio産の牛肉のカルパッチョとともに。 Gambretti, uova di gamberi, ricotta,limone,olive e capperi 小エビ、エビの卵、リコッタ、レモン、オリーヴ、カッペリ Crostino bottarga e limone ランチではマグロのボッタルガを使ったパスタ「スパゲッティ・アッラ・タラタタ Spaghetti alla TARATATA」を食べたが、その際に使用したAlfio Visalliのボッタルガが今度はレモンを使った一口サイズのクロスティーニで登場。ねっとりとした食感と潮の香りとレモンの香り、強いコントラスト。 Pizzuliati, Patrinnostri, Gnucchitti ai ricci di mare, limone e mela acerba ピッツゥリアーティ Pizzuliatiとはカボチャを使ったミネストラのこと。ラグーサ伝統のミネストラをベースにパートリンノストリ Patrinnostri=リガトーニ、ニュッキッティ Gnucchitti=ニョッケッティ・シチリアーニという2種類のパスタを使ったスープパスタ。ウニのソースと白インゲン豆のクリーム、野りんごの酸味が味を引き締める。添えられているのはTartare di scampi e guancia di cernia con salsa araba e caviale キャビアの下にはエビとハタのほほ肉のタルタル、ヨーグルトを使ったサルサ・アラバ Salsa Araba。 Paseggiata della lumaca, Gambero crudo, mollica, scampo can salsa di fichidindia 「カタツムリの散歩」という料理は奥の円筒状の筒に入っている。上からモッリーカ、生のエビ、リコッタ・クリーム、一番下にオレガノとトマトソースで煮たカタツムリ。重層的なカプチーノ状の構成になっている。スプーンの上には生の手長海老とサボテンの実 Fichi d’Indiaの甘いソース。 Triglia maggiore di scoglio, Dominazioni siciliane, dal De Re Coquinaria di Apicio アピシウスの料理書とシチリア統治の歴史にインスピレーションを得た料理。アピシウスはヒメジに目がなく、大枚をはたいてもヒメジを購入していたという。ヒメジは炭火で直にグリルし、魚のブロード、野生のセロリ、コラトゥーラ・ディ・アリーチ(ガルム)のソースにシチリアの希少小麦ティミリアで粘度を加えたもの。中央にはヒメジの卵とレバー。もう一種類のソースは甘口ワイン、パッシートとコリアンダーシード。甘味とガルムというコントラスト。 Pasta con le sarde Spaghetti con sarde finocchietto,mollica イワシのパスタもシチリアを代表する味だが、これには野生のフェンネルのソースをプラスしてシチリアの荒野でイワシのパスタを立ち食いしているかのような錯覚にとらわれる、強烈な芳香。 Gelato al tartufo siciliano e zibibbo 一口サイズの口直しには、シチリアのパラッツォーロ・アクレイデ産黒トリュフとズィビッボの冷たいジェラート。乳製品とトリュフの相性の良さが心地よい。 Maialino nero Siciliano farcito, Lenticchie, tartufo nero Siciliano (in memoria di antiche consistenze) シチリア産骨つき黒豚ロースのファルチート。豚のファルチート、と聞くとピンとくるかたもいるかもしれない。一口食べた時「む?」と感じたが、これはキアラモンテ・グルフィの豚の名店「マヨーレ Majore」のスペシャリティに敬意を評した料理。中にはアックア・ディ・ポモドーロ、モッリーカ、ファルマッジョ・ラグサーノ、豚ひき肉で作った詰め物を仕込んでロースト。シチリア産黒トリュフをトッピング。ラグーサの郷土料理をガストロノミーへと昇華。 Crema soffice di vaniglia e sorbetto di caffe speziato, Babba amara, Ramo di marasche ドルチェ、ふわふらの感触バニラのクレマ・ソッフィチェの下にはスパイシーなコーヒー豆が隠されている。コーヒー味のシャーベットとあわせたややほろ苦い大人のババ、ラーモ・ディ・マレスカ=ダークチェリーの枝、というドルチェはチョコレートと一口サイズの冷たいダークチェリー・ジェラート、ミントの組み合わせ。 ‘mpanatigghi, crema pistacchi,Mini cassata etc… 小菓子まで徹頭徹尾シチリアである。一口サイズのンパナティッギは牛肉をさまざまなスパイスとともに煮込み、詰め物にした南シチリアの菓子。そしてこれも一口サイズのミニ・カッサータ。「ドゥオモ」の食卓にはシチリア以外の料理、ドルチェは一切登場しない。シチリアマニアならば狂喜乱舞するような食材と歴史に満ちた料理の連続で、例え難解でも家に帰ってから料理の意味などを調べて見ると「そうだったのか!」と思うであろうこと必死。胃を満たすためだけではなく(もちろん満たすが)、頭と心を満たしてくれるチッチョの料理は、シチリア料理を知った気になっている客の自尊心をうちくだき、さらに奥深いシチリア料理の世界へと誘ってくれるはずだ。 Ristorante Duomo www.cicciosultano.it/ristorante-duomo Via Capitano Boccheri,31 Ragusa Ibla (RG) Tel0932-651265SAPORITAをもっと見る
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