アブルッツォワイン紀行3 ザッカニーニとヨーゼフ・ボイス
3件目のワイナリーは1978年創業の「ザッカニーニ Zaccagnini」。当初は小さな家族経営、生産するワインは量り売りもしくは他メーカーへ売却と、かつてのアブルッツォによくあるスタイルのワイナリーだったが1992年からクオリティワインにスタイルを変更しこの30年で急激に成長。現在は300ha、年間300万本を生産し、Montepulciano d’Abruzzo DOC Il Vino dal Tralcettoは全米で最も売れているイタリア赤ワインで2位になったこともあるほどで、アメリカで飲まれているデイリーワインのベストセラーのひとつだ。 現在もザッカニーニ・ファミリーが所有し、オーナーは創業者であるチッチョ・ザッカニーニ Ciccio Zaccagniniで現在は息子のマルチェッロ Marcelloへとバトンを渡しつつある。「ヴァッレ・レアーレ Valle Reale」を後にしてまたしてもアブルッツォの山道を30分ほど車で走ると、たどり着いたのはとっぷりと日も暮れた午後19時30分。それでもわれわれを待っていてくれたエクスポート・マネージャーのアンジェロ・リッチ Angelo Ricciはにこやかにワイナリーを案内してくれたのだ。 「ザッカニーニ」はペスカーラの内陸約40kmボロニャーノ Bolognanoにあり、モントロトンド自然保護区とピアナ・グランデ・デッラ・マイエレッタ国立自然保護区に挟まれた谷間に位置している。モンテロトンドを越えれば「ヴァッレ・レアーレ」のポポリの畑がある。ボロニャーノ、と聞いてピンと来た人は相当なイタリア通だと思うが、実はこの地にはドイツの現代美術家ヨーゼフ・ボイスが滞在し、多くの自然保護活動を行ったのだ。ヨーゼフ・ボイスといえばマッシモ・ボットゥーラが彼の作品からインスピレーションを得、「Oops!ウップス」など多くのシグネチャーディッシュへと昇華させたことで現代イタリア料理界においてもヨーゼフ・ボイスの活動を再評価する動きが高まっている。 1984年5月13日、ボロニャーノでヨーゼフ・ボイスは自然保護プロジェクト「ディフェーザ・デッラ・ナトゥーラ Difesa della Natura」をスタート。7000種類の植樹などアブルッツォが持つビオディベルシタ=生物多様性を保護する意義を問い、多くの人々に影響を与える。ザッカニーニはじめ現在多くのアブルッツォのワイナリーがビオ、あるいはビオディナミでワイン生産を続けるのはこの時のヨーゼフ・ボイスが提唱したアブルッツォの自然を守る運動がきっかけとなったと言ってもいいだろう。「ザッカニーニ」には当時多くのアーティストがヨーゼフ・ボイスをモチーフとした描いたワイン・ラベル・コレクションが数多く保存されており、カンティーナにはヨーゼフ・ボイスの写真も数多く飾られているので興味ある方は一度見学してみるといいだろう。 ぶどう畑を見下ろすデパンダンスでこの日試飲したのは5種類。Abruzzo Pecorino DOC YAMADA 2018 「YAMADA」とはもちろん日本語の「山田」だがこれは山と田園を尊重する「ザッカニーニ」の思想を最も反映する単語として日本から選ばれた。華やかなシトラス、グレープフルーツ、さんがフレッシュな早飲みタイプ。Cerasuolo d’Abruzzo DOC Il Vino del Tralcetto 2018 トラルチェットとはぶどうの小枝のことで、トラルチェット・シリーズは全てネック部分にぶどうの小枝が飾り付けられている。モンテプルチアーノ種をソフトプレスしたフリーランジュースのみを使い、スキンコンタクト無しで発酵。濃厚なロゼは香りも味わいもチャーミングというよりは男性的。こちらも普段飲み用のデイリーワインだ。一方Montepulciano d’Abruzzo DOC Il Vino del Tralcetto 2017 は同じトラルチェット・シリーズだがモンテプルチアーノをステンレスタンクで発酵後4ケ月大樽熟成。滑らかでフルーティ、舌触りのよい赤。Montepulciano d’Abruzzo DOC Cronicon 2016 はステンレスタンクでの発酵後、瓶内熟成を経てリリースされるミディアムクラス。モンテプルチアーノのキャラがよく出ており、ほどよいタンニンも感じる。Montepulciano d’Abruzzo DOC Terre di Casauria Riserva ” San Clemente” 2014 市場価格は25ユーロ前後だが、コスパは非常に高い。14.5%、6ケ月大樽熟成のあと9ケ月瓶内熟成させた長熟タイプ。完熟ぶどうから来るリコリスのようなニュアンス、ブラックベリー、重厚かつ豊満。これはぜひアブルッツォの羊料理と飲みたい、と考えているとアンジェロが「ではそろそろ夕食に行きましょうか」というではないか。試飲だけで終わらないのがアブルッツォ式のおもてなし。ワインやグラスをてきぱきと片付けると、アンジェロは自らの車でわれわれを先導。キエーティ方面へと山道をひたすらくだること約1時間。「イル・ディート・エ・ラ・ルーナ Il Dito e La Luna」についたころは22時近かった。 例によってサラミ、プロシュット、ペコリーノ、ピッツァ・ビアンカにはじまりCroniconを飲む。やがてランチに続いてまたしても羊の串焼きアロスティチーニがミニバケツに入って大量に登場。これは重厚なSan Clemente飲みつつ食べる。アロスティチーニは一度食べ始めるととまらなくなる禁断の味なのだが、見るとスタッフが次々におかわりを持って来るではないか。アンジェロに聞くと、とりあえず100本頼んどいたという。われわれは総勢16名なので1人6本計算だが女性陣はほとんど手を出さない。必然的にわたしとアンジェロ、一部イタリア人でひたすらアロスティチーニを頬張るという図式となり、その結果は写真の通り。やはり試飲だけではなく、地元の料理とともに味わい尽くしてこそのワインだ、とあらためて実感。 #wearedaburuzzo #vinidabruzzo Zaccagnini Contrada Pozzo, Bolognano (PE) Tel085-8880195 www.cantinazaccagnini.it Il Dito e La Luna Contrada Feudo 154, Ripa Teatina (CH) Tel328-1293639 www.hotelilditoelaluna.com  

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