シチリア料理の現在形4 フォルマッジョ・ラグサーノ Formaggio Ragusano
シチリアを代表するチーズ、フォルマッジョ・ラグサーノDOPはその独特な形状と熟成方法がパルミジャーノ・レッジャーノDOPに代表されるようなイタリアの他のセミハードタイプとは一線を画しており、スローフード協会認定の保護対象食品PRESIDIOにも認定されている。今回のシチリアの旅では、チッチョ・スルターノの友人カルメロ・チリア Carmelo Ciliaに案内されて、フォルマッジョ・ラグサーノDOPの生産者ジョヴァンニ・グリーノ Giovanni Gulinoを訪ねた。 フォルマッジョ・ラグサーノは1995年DOP認定、生産範囲は南シチリアのラグーサ県全域とシラクーサ県の一部。おおまかにいうならばユネスコ世界遺産ヴァル・ディ・ノートの南半分地域に相当する。シチリアでも最も古いチーズのひとつで、1515年にはラグーサが免税対象地をなっていたことから、この当時すでにラグサーノは主力輸出商品だったと考えられている。その直方体の形状は別名「イブレイの金の延べ棒」とも呼ばれており、古来から地元で珍重されてきたのだ。DOPの規定では直方体の短辺は15〜18cm、長辺が43〜53cm、重さは10〜16kgだ。使用する乳牛の品種に規定はないだ、古来より珍重されてきた在来品種がモディカーナ Modicanaだ。この赤牛はワイン色に近い美しい赤い毛並みが特徴で雄の場合は時折黒っぽいニュアンスが混じることもある。モディカーナがいつ頃シチリアに導入されたのか、その起源は定かではないがヨーロッパ原産とも地中海原産とも、あるいはノルマン人やアンジュー家がシチリアにもたらしたとも。PRESIDIOに指定されているように、絶滅が危ぶまれるようになったのはその生産性の低さにある。 牛乳は年産で約3000リットル、肉牛としての生産性も多品種に比べると半分ほどなので、近代化とともに徐々に頭数が減少、1970年代には25,000頭、現在では2000頭ほどしかいないといわれている。今回訪れたジョヴァンニ・モーリはモディカーナのみを飼育し搾乳。ラグサーノ、プローヴォラ、リコッタなど昔ながらの作り方に沿ったチーズを生産している。フォルマッジョ・ラグサーノDOP組合加盟の生産者はほとんどが小規模農家なので、牛乳生産者(Produttori di latte)、チーズ生産者(Caseificatori)そしてユニークなのがこうした小規模生産者が作ったラグサーノを熟成させる専門の熟成農家(Stagionatori)が存在することだ。ラグサーノを縄で縛り、天井から吊るして熟成させる光景はこの熟成農家固有のものだ。 ジョヴァンニからモディカーナの話を聞きつつ若いラグサーノとプローヴォラを試食。ラグサーノの味の特徴は若いものだと牧草の香りやミルキーかつ弾力のある質感、熟成が進んだものは強くて優雅な芳香と滑らかな食感、舌溶けのよさがなんともいえない。パンの上にのせてあぶって食べたり、あるいはパルミジャーノのようにパスタに直接削ってかけたりと、南シチリアの強い味を生み出す原動力のひとつとなっている。SAPORITAをもっと見る
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