50 Best 2019に見るイタリア料理の到達点
過日シンガポールにて「世界ベストレストラン50」 World 50 Bestの発表会が行われた。その内容はすでに広く報道されているのでここでは詳細を控えるが、以前SAPORITAで予想した通り過去に世界一となったOsteria FrancescanaなどはBest of Bestつまり殿堂入りを果たして今回はランク対象外。昨年3位だったMirazurが初の世界一となった。シェフのマウロ・コラグレコはイタリア系アルゼンチン人で、ブエノスアイレスのグアルティエロ・マルケージでも働いていたことがあるなどイタリア料理との結びつきも強い。今年は早々にミシュラン3つ星を獲得するなど早くからコラグレコ・イヤーと言われていたがそれを証明する形となったわけだ。 昨年世界一だったマッシモ・ボットゥーラがランク外となったことで正直華やかさにかけたことは否めないが、ことイタリア料理界を中心に眺めてみると、ランクインした店もことごとく順位を下げ、イタリア料理界にとっては喜び半分、という結果となった。ここであらためてイタリアのランクを見てみたいが、今年はWorld 50 Bestのメインスポンサーであるサン・ペレグリノ San Pellegrino120周年を記念して50位から120位までが事前に発表された。50位から120位までのイタリア勢は以下の通りだ。No.51 Reale (Castel di Sangro) NIKO ROMITO No.61 Uliassi (Senigallia) MAURO ULIASSI No.78 Lido 84 (Gardone Riviera) RICCARDO CAMANINI No.116 St.Hubertus (San Cassiano) NORBERTO NIEDERKOFLER
ミシュラン2019で3つ星を獲得したウリアッシ Uliassi、同じく2018年度版で3つ星を獲得したサント・ウベルトゥス St.Hubertusのランクインは満を持して、という感じで実に喜ばしい。同じく78位にランクインしたリド・オッタンタクアットロ Lido 84は日本ではおそらくまだ知名度があまりないだろうが2019年度版Guida Espressoで最高峰の5つ帽子 5 Cappelliを獲得。さらに今回Lido 84はMiele One to Watch Awardつまり注目店賞を受賞。イタリアにおいて現在3つ星最短距離にいるのは間違いない。ちなみにリッカルド・カラマンニのシグネチャーディッシュは豚の膀胱でカルトッチョにしたカチョ・エ・ペペだ。同じく3つ星ニコ・ロミートのRealeは前年度36位から51位と圏外、15位もランクを下げた。次に50位圏内を見てみたい。()内は2018年度の順位だ。No.31 (No.23) Le Calandre (Rubano) MAssimiliano Alajmo No.29 (No.16)Piazza Duomo (Alba) Enrico Crippa
こちらもレ・カランドレ、ピアッツァ・ドゥオモという3つ星店がいずれも順位を下げ、昨年は50位内にオステリア・フランチェスカーナ、レアーレと4件ランクインしていたのだが今年はわずかに2件。ちなみに50位内の国別件数を見て見ると以下の通りだ。Spain 7 USA 6 France 5 Italia, Japan, Peru, Denmark, Mexico, Thailand, China, Russia 2 Chile, Argentine, Slovenia, Singapoleなど14ケ国が各1
イタリア勢が軒並み評価を下げた件に関してはGambero Rossoがとある見解を示しているので興味ある方はご覧いただきたい。それは以前から言われていることだが、基本的にWorld 50 Bestは世界1000人の審査員が(わたしも隔年で審査員を担当)過去18ケ月以内に訪問したことがあるレストランしか投票できないシステムだ。つまりまず絶対的にテーブルを確保しないといけないし、投票数の多さはレストランの席数に自ずと比例する。2017年にイレブン・マジソン・パーク Eleven Madison Park(NY, USA)が前年度世界一のオステリア・フランチェスカーナを抑えて世界一になったのは前年度の50 BestがNY開催で多くの審査員が同店を訪れたのが一因と言われているし、今年もスペイン勢、特にバスク地方から多くランクインし順位をあげたのは2018年度50 Bestがサンセバスチャン開催だったからという見方もある。この件に関しては、2017年にオステリア・フランチェスカーナが2位となった時、パオロ・マルキらミラノのジャーナリストが「50 Bestのミラノ開催」を訴えた。ミラノで開催することで世界中から多くの投票権を持ったジャーナリストらがミラノを訪れ、ミラノまたその近郊のレストランに足を運ぶことで絶対的な投票数は増えるはずだからだ。現状の投票システムならば、このホームアドバンテージは翌年以降必ず効果を表すはずであり、50 Best開催地=翌年の大幅ランクインは約束されているも同然だ。これは今年の開催地だったシンガポール勢(今年は1件のみ)が来年どうなるか、を見れば証明されることだと思う。 イタリア勢に話を戻そう。殿堂入りを果たしたオステリア・フランチェスカーナを含めれば120位圏内にランクインしたイタリア勢は合計7件でミシュラン2つ星のリド・オッタンタクアットロをのぞけば他の6件は全てミシュラン3つ星だ。ちなみに2019年度版ミシュランで3つ星を獲得していながらランクインしていないのはダル・ペスカトーレ Dal Pescatore、エノテカ・ピンキオーリ Enoteca Pinchiorriそしてハインツ・ベックのラ・ペルゴラ La Pergolaの3店。近年のファインダイニングの傾向および嗜好からすればダル・ペスカトーレとエノテカ・ピンキオーリはランクイン対象というよりも「クラシック部門」があるならばそちらで殿堂入りを果たすべきグラン・メゾンなので特に疑問はない。しかしラ・ペルゴラがなぜランクインしないのかは不思議でならない。 Gambero Rossoの見解では今年あらたにNoma 2.0が初登場でいきなり2位と史上最高位(Highest New Entry Ever)でランクインしたことから、多くの審査員がデンマークを訪れたので、昨年19位のGeraniumも5位へと一気にランクアップしたのではないかということだ。その仮定に基づくならば、現在ローマにミシュラン3つ星はラ・ペルゴラしかないが、イル・パリアッチョ Il Pagliaccioのアントニー・ジェノヴェーゼ、グラス・オスタリア Glass Hostariaのクリスティーナ・ボウワーマン、そして日本人シェフ能田耕太郎のビストロ・セッサンクアットロ Bistrot 64ら、現代イタリアのファイン・ダイニング界を代表するシェフも多い。こうしたレストランにも現在よりさらに多くの審査員が訪問するようになればおのずとローマ勢の評価も上昇するのでないだろうか。ミラノ勢だけでなく、来年以降はローマ勢一丸となった健闘にも期待したい。SAPORITAをもっと見る
購読すると最新の投稿がメールで送信されます。