3種の超絶熟成ビステッカ・テイスティング
ここ最近フィレンツェではビステッカ・アッラ・フィオレンティーナのユネスコ無形文化遺産登録へむけた活動が活発だ。そうした影響もあってか近年ではビステッカを看板メニューとする店が急激に増え、店の前に冷蔵ショーケースを並べて肉の品質の良さを誇示している風景も日常的に見かけるようなったが、10年前はそうした売り方は皆無だったと記憶している。ビステッカはシンプルゆえに焼き方が命。従来は経験則で表面5分、裏面5分、最後にT字部分3分、などと言われていたがこうした経験則に基づく調理はばらつきも多く、名店と言われている店でも注文したビステッカは真っ黒焦げ、中も火が通り過ぎ、ということもしばしば起こりうる。レジーナ・ビステッカのように、アル・サングエの場合は芯温40度で火からおろし、52度の保温庫で10分休ませる、というきちんとした調理をする店も増えてきたのはビステッカ・ファンにとっては嬉しい限りだ。 さて、過日ビステッカの聖地フィレンツェで熟成マエストロ、フランチェスコ・カマッサ Francesco Camassaを招待しての限定ディナーが行われた。会場は現在ビステッカ専門店としてフィレンツェで絶大な人気を誇るダッロステ Dall’Osteだ。カマッサはプーリア州グロッタッリエで1900年から続く精肉店に生まれ、店を継いで発展させた。イタリアでいち早く熟成肉に取り組んだパイオニアであり、900日熟成ビステッカという記録を持つ。2017年には世界の精肉店がその技術を競う世界大会World Butcher’s Challengeのイタリア代表チーム主将を務め、翌2018年にはベルファストで世界6大精肉職人に選ばれた「マエストロ」マチェライオ。いまやイタリア精肉界においてはダリオ・チェッキーニと並び称されるカリスマだ。今回はカマッサがセレクトしたシメンタール、ブラック・アンガス、ルビア・ガジェーガというキアニーナではないスペイン育ちの牛肉を3種セレクト。その違いを味わった。Tartare di Simmenthal tedesca
ドイツ品種のシンメンタール60日熟成のタルタルは黒トリュフとブッラータ、2種類の組み合わせで味わう。淡白な赤身で血の感じは全くない。組み合わせとしては肉質が淡白な分、脂質を補うブラータとの組み合わせは口中に旨味は広がる。一方、黒トリュフは味よりも香りを楽しむ組み合わせ。Carpaccio di Rubia Gallega
中央にあるのがスペイン品種ルビア・ガジェーガ60日熟成のカルパッチョ。適度にサシがはいっていて和牛のような滑らかな質感。提供温度がやや低かったので、もう少し温度が高い方がより滑らかに感じることができたのでは、と思う。プーリア産タラッリのクランブルでクリスピーな食感をプラス。Mini Burger di Black Angus Spagnolo
2番目の料理は、スペインのレオン生まれ、マドリッド育ちの黒毛アンガス30日熟成。包丁でざっくりと切ったテクスチャーは、ひき肉と違って肉をダイレクトに味わう食感。脂も練りこんでいないので非常に淡白。肉以外の部分はカマッサ・マターではないがチーズソースと甘いモスト&シロップのようなソースよりも、肉の味を引き立てるバルサミコかセナペのほうがよかったか。Tris di Polpette
添えられているのはシンメンタール、黒毛アンガスにこれもスペイン品種ルビア・ガジェーガ60日熟成の3種を使ったポルチーニ入りポルペッテ。焼きムラはあったが肉質は滑らかで美味しかった1.Black Angus 30gg
1 黒毛アンガス30日熟成。この夜の調理はDall’Osteが担当。最初のビステッカは明らかに火が入り過ぎていたがそれでも若いアンガスは肉質も柔らかく、焼き切った脂身も溶けるよう。ちなみに今回はサーロイン+フィレのTボーンではなく、いわゆるLボーン、コストラのみを使用。2.Simmenthal 60gg
ドイツ生まれガリシア育ちのシンメンタール60日熟成。個体としてはアンガスやルビア・ガジェーガより大きいが肉質も柔らかく、上品なアロマ。3.Rubia Gallega 60gg
3種類目はスペイン生まれ、スペイン育ちの固有品種ルビア・ガジェーガ60日熟成。複雑なアロマ、60日熟成とはいえ水分も豊富で旨味も強い。いずれの肉にも共通するのは熟成肉だからといって旨味を増加させるのではなく、あくまでもナチュラルに熟成させるテクニック。水分は抜き過ぎず、旨味も増やし過ぎず、マグロでいうならトロでなく赤身のうまさを味わう、そんなビステッカだ。 カマッサの熟成法はいわゆるセミドライ・エイジングで、専用の保冷庫を必要とする点がワインやチーズとは違うという。庫内の温度は0〜2度、湿度設定は最初は70〜85度。牛の半身を吊るしてそのまま冷蔵すると最初はサラミやプロシュットと同様に白カビMuffa Nobileが発生する。やがて熟成がすすむうちに湿度を徐々に下げて最終的には60%にする。100〜200日ほど熟成した肉に関してはその時点で脂を外し、提供する際はカビも全てとりのぞく。カマッサ曰くこの方法での熟成が900日が限度。世の中にはよりエイジングをかけた肉も存在するが、ビステッカとして食べるにはこれぐらいの熟成が一番良いコンディションだそうだ。 www.macelleriacamassa.itSAPORITAをもっと見る
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