日本のイタリアンを旅する08 銀座サバティーニで味わう1kgキアニーナ
この写真に見覚えがある方はいるだろうか?そう、80歳を迎える今年も「銀座サバティーニ」でサービスに従事する超ベテラン、プリモ・トンバ氏だ。「銀座サバティーニ」は本家フィレンツェ「サバティーニ」東京店として、日本のイタリア料理ブームに先立つ1981年にオープン。2017年SONYビルの閉館とともに一時クローズしていたが昨年秋満を持して再び銀座にリニューアル・オープンしたのだ。「銀座サバティーニ」を訪れるのは昨年11月以来。というのも今年になってから日本にもキアニーナことキアナ牛が本格的に入るようになり、本場の味が楽しめるようになったのだ。この夜はそのキアナ牛を使ったビステッカ・アッラ・フィオレンティーナをメインに、ディナー・コースを味わった。

アンティパスト

この日の前菜はカプレーゼ、プロシュット、ヴィテッロ・トンナート、パンツァネッラ、スペルト小麦と魚介類のサラダ。

ウニとイカのタリエリーニ

イカスミを練りこんだタリエリーニにイカとウニをふんだんにトッピングしたパスタ。ウニの甘さが際立つ。前菜もパスタも、このあとにビステッカが登場するので控えめなポーション。

キアナ牛のビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ1kg

メインで登場したのがキアナ牛を使ったビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ1kg(28,000円)、焼き加減はおまかせ。Tボーンから推測される個体の大きさからするとカットはやや薄めでいわゆる日本のビーフステーキの感覚に近い。これを例によってゲリドンサービスで切り分けてくれたのがトンバ氏。よく切れるナイフを使い、熟練の手さばきで1kgの肉をすぱりすぱりと切ってゆくその手つきは見事のひとこと。スペシャリティである「サバティーニ風スパゲッティ」や「クレープ・シュゼット」もそうだが、イタリア料理界の人間国宝的存在であるトンバ氏のサービスを見るだけでも「銀座サバティーニ」に足を運ぶ価値がある。 キアナ牛の肉質はというと滑らかかつ締まっており、脂身は少なく和牛とは対照的。よくビステッカ1kgと聞くと「そんなに食べられるのか?」と戦々恐々とする人もいるが、骨を外した可食部分は大抵600〜700g、赤身主体なのでこれが結構食べられてしまうのだ。Tボーンを挟んでサーロイン部分とさらに柔らかく血が多いフィレを交互に、時折EXVオリーブオイルをかけながら味わいつつ、よく焼き切った脂身を食べて脂質を補う。赤身肉だけ食べ続けるとどうしても脂が欲しくなるがその点でもこのキアナ牛は非常に合理的かつ理想的な個体だ。合わせるのはこれも「銀座サバティーニ」の定番ティニャネッロ。気がつくと1人で1kgのビステッカを完食、満足感は高いが、食後感は意外と軽い。通常ならば2〜4人ぐらいで分け合えば理想的な量ではないだろうか。 近年イタリアの多くの食材が日本に入ってきているが2000年代前半にヨーロッパで起きたBSE=狂牛病の影響で骨つき牛肉はなかなか目にする機会がなかった。骨つき肉はうまい、というのもよく言われる話だがその理由は主にふたつ。ひとつは骨つきの場合肉が縮まないから、という調理法的側面。もうひとつは骨はアミノ酸=旨味を生成するから、という味覚的側面だ。そしてTボーンをはさんでサーロインとフィレが同時に味わえるビステッカ・アッラ・フィオレンティーナという料理は、牛肉のグリルとしては最も理想的な食べ方である。そしてレストランの格的にも、またフィレンツェ料理というスタイル的にも、そして値段的にも「銀座サバティーニ」ほどキアナ牛のビステッカが似合う場所は無いだろう。イタリアの最高級の牛肉を味わいたい、という人は一度体験してみるべし。 銀座サバティーニ  

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