イタリアのクラフトビールとコリアン・フュージョンの親和性
ほんの20年ほど前のフィレンツェには、イタリア料理の店しかなかった。正確に言えば、中華の店もアラブ系の料理の店も少しはあったが、その存在感はほんのわずかで、大半はイタリア料理、否、トスカーナ料理の店だった。しかし、ここ数年で爆発的にレストランの数が増え、それに合わせて店の種類も格段に増えた。パニーノ専門店、ベジタリアン・ビーガン料理、ビステッカを売りにする店、ラーメン店、ベトナム料理、ポキの店。食事だけでなく、ロカーレと呼ばれるドリンク中心の夜バールが増え、昨今のミクソロジーブームで本格的なカクテルを出すバーやウイスキーバーもできている。なんでも揃うオーソドックスではなく、細かくコンセプトを立てて、我が道を行くという店が今のフィレンツェ飲食業界の最先端の“気分”だ。その一つが、2017年にサント・スピリト地区にオープンしたPint of View。クラフトビールとカクテルとコリアン・フュージョン料理の店である。 フィレンツェでオリジナルのクラフトビールを手がけて成功しているビールバーArchea Brewery(2012年オープン)とフィレンツェで初めて本格的なミクソロジーを楽しめるシークレットバーとして誕生したRasputin(2016年オープン)がバックアップした同店には、古典的なイタリアンテイストはどこにもない。ワインがないし、メニュー構成もイタリア料理的なプリモ、セコンドのようなカテゴライズがなされていない。そもそも、コリアン・フュージョン料理だから、イタリア料理のルールは無縁。あれこれ料理を肴としてつまんで、ビールやカクテルを楽しむというのがこの店のスタイルだ。コリアン料理の味にインスパイアされたオリジナルカクテルも味わえるし、クラフトビールとコリアン料理の親和性は意外に高く、イタリア料理よりも相性がいいのではないかと思うものもある。野菜をたくさん使い、発酵食品も多用するコリアン・フュージョン料理は、和食に親しんだイタリア人の間に浸透する可能性は大いに高い。ブームと言えるような動きがほとんどなかったイタリアだが、2010年代はレストランシーンにも目まぐるしく変化が起きており、Pint of Viewは間違いなくフィレンツェの食の今を知るチェックポイントの一つだろう。SAPORITAをもっと見る
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