日本人初、立命館大学が「レフェットリオ」に参加した
「レフェットリオ」とは2015年のミラノ万博を期にマッシモ・ボットゥーラがはじめたチャリティ・レストランで、フードロスと食の貧困を同時に解決する画期的な取り組み。現在はミラノ、ロンドン、パリ、リオ・デ・ジャネイロなど毎日食事を提供する正式な「レフェットリオ」に加え、ボローニャ、ナポリ、モデナなど週1回の活動で「準レフェットリオ」的存在ともいえる「レフェットリオ・ソーシャルテーブル」がある。去る2019年9月23日に立命館大学食マネジメント学部の学生23名が訪れたのは、通常は社員食堂として営業し、月曜の夜のみ無償で生活困難者に食事を提供するモデナのレフェットリオ・ソーシャルテーブル「ギルランディーナ」だ。 ことのきっかけはフィレンツェ在住時代からの知り合いで、現在は立命館大学食マネジメント学部教授を務める石田雅芳氏との会話の中から生まれた。9月に学生を連れてイタリア研修に行くのでモデナのレフェットリオを見学に行きたい。ならば見学だけではなく、本格的に参加して学生たちで料理を作るというのはどうだろうか?そんなアイディアを3月にミラノで行われたイデンティタ・ゴローゼでマッシモ・ボットゥーラに話したところ、それは素晴らしい、と二つ返事でOKしてくれたのだった。 約二週間にわたるイタリア研修で学生たちは北イタリアの生産者などを周り、訪問先から余剰食材を入手。研修旅行最終日になる9月23日にモデナのレフェットリオで料理を作ってゲストに提供しよう。そう決めてからプロジェクトは急速に進み、今回世界中の「レフェットリオ」を運営する「フォード・フォー・ソウル」の全面的協力の元、日本人の団体として初めて「レフェットリオ」に参加することになった。 当日「ギルランディーナ」に学生たちが持ち込んだのは、訪問先で譲り受けたジャガイモと傷みかけた洋梨。スペースの関係から6名だけが厨房に入り、当初はなにか1品だけでも作らせてもらう予定がボランティアスタッフから「今日はあなたたちが主役だから、自由にやってください」と厨房を丸ごと貸してもらい、日本人とイタリア人の混成スタッフで料理作りが始まった。50名のゲストが食事にくるまで時間は2時間半で、使える食材はモデナのアルビネッリ市場から提供してもらった廃棄対象食材のみ。イスラム教徒のために豚を使わない料理かベジタリアンメニューは必ず用意しないといけない。目の前にある材料のみでいかに50人分の料理を作るか?その奮闘ぶりは一連の写真で見ていただきたい。 全員で分担し、助け合いながら用意したのは大量のトマトを使った「パッケリ・アル・ポモドーロ」「ジャガイモの皮のチップス」「パターテ・アル・フォルノ」「プロシュット、モルタデッラのフォンディーニ・ミスティ」「ナス、ペペローネ、ニンジンのフリット」「マチェドニア」地元のモデナのボランティア・スタッフがゲストにサーブしはじめると「足りない」「もっとないのか?」と言ってくるではないか。 最後のマチェドニアを出し終えた後、スタッフ全員でゲストの元へ挨拶に訪れるとゲストたちは温かい拍手で迎えてくれ、”Bravi” “Complimenti” と次々に出てくる賛辞の言葉を聞くと思わず胸が熱くなる。ゲストをもてなすつもりが逆に彼らに勇気付けられてしまったのだ。マチェドニアがまだ余っているというと、お代わりを求める人が続出。再びマチェドニアを盛り付けしながら思ったのは、難しい生活を日々続けるゲストたちが何よりも求めているのは、生きるためのエネルギーとなる糖分なのだ、という事実だ。 ボットゥーラは常々、レフェットリオとは飢えを満たすだけの場所ではなく、人間の尊厳を取り戻す場所だと口にする。炊き出しのように大鍋のそばで立ち食いするのではなく、綺麗な食堂に着席し、一皿一皿スタッフがサーブしてくれる食事とは、ゲストたちにとってもおそらくは失ったなにかを取り戻せるひとときのはずだ。70代ほどの女性が1人、スタッフが片付けを始めても名残惜しそうに最後まで残っていたのだが、学生たちに”Ciao”といって立ち上がると扉を押して再び夜のモデナへ戻って行った。その夜はベッドに入っても彼女の後ろ姿がまぶたに浮かんで来て、なかなか寝付けなかった。 Social Table Ghirlandina Via Leodoino, 9 ModenaSAPORITAをもっと見る
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