イタリア最高峰、エノテカ・ピンキオーリの最新メニュー「スコペルタ」
フィレンツェに本店を構える「エノテカピンキオーリ」は「エノテカ・ナツィオナーレ」を前身としてジョルジョ・ピンキオーリとアニー・フェオルデが作り上げたイタリア屈指のグランメゾンであり、特にワインにおいてはイタリアはもちろんのこと世界屈指のコレクションを誇るリストランテである。イタリアでは「グアルティエロ・マルケージ」「アンティカ・オステリア・デル・ポンテ」についで1993年に史上3番目となるミシュラン3つ星に輝き、それに先立つ1992年には銀座に「エノテカ・ピンキオーリ銀座」をOPEN、当時のイタリア料理ブームを牽引する高級店として東京のイタリア料理店の最高に君臨していた。 しかし日本出店と同じくして本店では過失により出火。一説では当時のスタッフによる意図的な放火という説も根強いが、15,000本の貴重なワインが消失し、その事件の影響もありミシュラン3つ星はわずか2年間しか維持できずに1995年には2つ星に降格。しかし2004年には見事再びミシュラン3つ星に復帰して以降、2019年まで連続16年連続で3つ星を維持している、 ちなみにイタリア・ミシュラン史上、アニー・フェオルデは外国出身シェフとして史上初、かつ女性シェフとしても史上初の3つ星シェフであり、2つ星に降格後3つ星に復帰したのも「エノテカ・ピンキオーリ」が史上初。それから16年経った現在も唯一無二の存在である。いわばイタリア料理界において酸いも甘いも噛み締めた、近代イタリア料理界の栄枯盛衰を見てきたレストランだ。そんな「エノテカ・ピンキオーリ」は現在リッカルド・モンコがエグゼクティブ・シェフとして厨房をリード。現在のコンテンポラリーな料理を中心とした「Contenporaneo ₡285(約34,200円)」とクラシックな過去の名作を中心として「Scoperta ₡275(約33,000円)」の2つのコースがある。この夜は膨大なコレクションを誇る近のカンティーナを案内してもらったあと「Scoperta スコペルタ=再発見」を味わった。ワインペアリングは各種あるがこの夜はスタンダードなおまかせにした。 Champagne Roseとともに登場した最初のアミューズはBigne’ di pomodoro, frittata, cetriolo marinato トマトのベニエ、フリッタータ、きゅうりのマリネ。続くワインは「エノテカ・ピンキオーリ」専用のハウスワインであるPoggio Scalette Chardonnay “RICHIARI” 2015。7月に名古屋でも味わったが BatarやGaja e Ray?を思わせるバリックとバターのようなシャルドネで酸は控えめ。Galette di patata, porcini, caviare
2つめのアミューズはジャガイモのガレット、生ポルチーニ、キャビア。ほのかなバターの香り、キャビアは淡白、淡い色のキャビアはオシェトラあるいはイタリア産か?ジャガイモとポルチーニという土中の食材同士でと土と土、相性がいい。Ricciola appena scottata nell’olio, capperi, guanciale e porri, raviolo croccante di ostrica e riduzione di cavolo cappuccio
ブリのスコッタータ、ケイパー、グアンチャーレ、ポロネギ、カキのラヴィオロ・クロッカンテ、キャベツのリドゥツィオーネ。7月に「エノテカ・ピンキオーリ名古屋」で食べた前菜を思わせる最低限の火入れの魚の前菜。淡白なブリ(実際には日本のブリとは全く異なるのだが)にはケイパーやグアチャーレ、やや塩が強めなポロネギは、カリフラワーのようなクリームで味を補い、カキのラヴィオリ包みのフリットがよくあう。これは餃子好きのリッカルド・モンコのアイディア最初のアミューズに次いで2回目のキャビア。Fegato di oca, due pomodori, bergamotto, anguria
メニュー外の前菜。フェーガト、トマト二種、ベルガモット、スイカ、あっさりとしたレバー、青と赤のトマト、スイカの甘み、ベルガモットの後味がいい。ワインはムルソー 2015、軽めのシャルドネだが控えめで上品、バリックなし。Astice in salmì, indivia al latte, crocchette delle sue chele e bergamotto
オマールのサルミ、エンダイブのミルク風味、爪フライ、ベルガモット。ビスクソースは濃厚、ベルガモット・カンディートは前の皿と重なったが、これは前の皿がメニュー外だったためか。Ravioli di bietole, arrostiti ma non bolliti, con caviale e latte di aringa affumicata
これもメニュー外のビエトラのラヴィオリ・ロースト(ノン・ボッリート)キャビア、燻製ニシンとミルクの泡。ソースは酸味とコクが美味しく、スモーキー。茹でてなくローストしたカリカリで中にはシャキシャキのビエトラ。ミルクの泡のコク、3回目のキャビア。Uovo, uova e primizie dell’orto…..
ワインはここで赤になる。Volnay Champans 2015非常に滑らかなブルゴーニュ。料理はタマゴと菜園の野菜仕立て。ポーチドエッグのパン粉揚げ、やや小さめのタマゴにはビエトラかイラクサのピューレをアガルアガルで固めたもの、鱒のタマゴは出汁とみりん、醤油でイクラの醤油漬け風だった。Tagliatelle mantecate al burro di rucola, sardine alla brace e croccante di maiale
ルーコラのタリアテッレ、イワシの炭火焼、豚のクロッカンテ。豚の脂をカリカリに揚げたチッチョリ、パンチェッタもカリカリ=やや塩は強め、苦味のあるルーコラのタリアテッレ、テクスチャーはやや硬め。苦味と脂分がよくあう。Agnolotti di patate bianche e raviolini di ossobuco in umido, salsa di vitello e fonduta di pecorini
白ジャガイモのアニョロッティ、オッソブーコのラヴィオリ、フォンドボーとペコリーノのソース。ラヴィオリはまるでピエモンテの田舎で食べているかのような昔風のクラシック。フォンドヴォーも70年代を思わせるようだが、ペコリーノのソースがやや現代的。Carre’ di agnello e fagioli
子羊の背肉、白インゲン豆。一口サイズの小さな子羊、これも塩はしっかりめ、白インゲン豆のクリームとトスカーナらしいトマトを少量入れた白インゲン豆。もうひとつの付け合わせはパン生地を子羊の脂で煮たもの。ワインは来店時から抜栓してあったアルゼンチンのマルベック” Adrianna Vineyard de Parcela malbec, Mondus Bacillus Terrae “濃厚、甘口、MendozaのGran Cru。Petto di anatra al carbone, crauti viola e crema di aglio piccante
鴨の胸肉の炭火焼、キャベツのビーツマリネ、ニンニククリーム。鴨は季節のせいかまだ脂が少なく、やや火を入れすぎの感もあった。キャベツはビーツに漬けて発酵させてあり酸味が心地よくあとくちさっぱり。ニンニククリームはニンニクの存在が控えめ。Sfoglia croccante di nocciole e frutto della passione
ヘーゼルナッツのスフォッリアとパッションフルーツ。ヘーゼルナッツを使ったチャルダもクリームもともに濃厚。同じくヘーゼルナッツのジェラートも濃厚で美味しい。パイナップルかと思ったらパッションフルーツだった。ほのかな酸味が心地よい。 プティフールは軽いミントのメレンゲと小菓子など。あわせるのはソーテルヌ。 「スコペルタ」は90年代あたりの古き良きグランメゾンを思わせるノスタルジックなメニュー構成。キャビア、オマールという高級食材を駆使するのも当時の高級イタリア料理店に共通する食材だ。しかしイタリア料理の殿堂的な店だけに、そうした料理はもちろん、サービス、客層、ワインペアリングはもちろん、店にはなんともいえない空気が漂う。思わず背筋が伸びるような心地よい緊張感は、イタリア広しとはいえなかなか体験できない。ワインペアリングを含めば予算は最低でも1人50,000円〜60,000円、ペアリングの内容によってはもちろんそれをはるかに超える金額になるが、それだけ払う価値はあるはずだ。なによりも20年以上イタリアのトップに立ち続けるその存在感は他の追随をゆるさない圧倒的なものがある。イタリアのガストロノミーを語るならばまずは「エノテカ・ピンキオーリ」を一度は体験すべきではないだろうか。 enotecapinchiorri.itSAPORITAをもっと見る
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