史上最年少で3つ星を獲得した「レ・カランドレ」の料理

パドヴァ郊外、ルバーノにある「レ・カランドレ Le Calandre」は長年リータとエルミニオ・アライモ夫妻が経営していたレストランだった。しかし1994年、当時1つ星だった店をラッファエッレRaffaelleとマッシミリアーノ Massimiloanoという2人の息子に譲り、アライモ Alajmo夫妻は引退する。この時マッシミリアーノはわずか20才。そしてその8年後の2002年には史上最年少でミシュラン3つ星を獲得するとは当時誰が想像しえただろうか?以来「レ・カランドレ」はイタリア屈指の名店として17年連続で3つ星を維持。ちなみにこれは「ダル・ペスカトーレ」の24年連続に次ぐイタリア史上最長記録だ。 マッシミリアーノはデビュー当時から少年のような明るいキャラクターから生まれる斬新な発想とクリエイティビティが際立っていたが、それは45才になった現在も全く変わらない。20代の頃と同様マッシミリアーノが作る料理は楽しくて斬新、しかしその根幹にあるのは確固たるイタリアの味だ。 17年連続で3つ星を維持しているにも関わらず「グラン・メゾン」という言葉が似合わないと感じるのは、店に漂うそのカジュアルな空気ゆえだろう。いまでこそファイン・ダイニングの世界では主流のスタイルとなったミニマルなインテリアとカジュアルな制服、テーブルクロスのないダイニング、というのはイタリアの3つ星では「レ・カランドレ」が史上初めて導入したスタイルだ。「ダル・ペスカトーレ」「エノテカ・ピンキオーリ」「ドン・アルフォンソ」といった殿堂入りに値する名店たちはいずれもフランス志向の「グラン・メゾン」のスタイルだったが、その意味では「レ・カランドレ」以前と以後ではイタリアのファイニン・ダイニング界の流れは大きく変わり、時代はミニマルなスタイルへとシフトしていった、といえるだろう。 現在「レ・カランドレ」では基本メニューはいずれも250ユーロで「クラッシコ Classico」「マックス Max=マッシミリアーノのこと」「ラフ Raf=ラッファエッレのこと」の3コースあるが、3皿135ユーロ、4皿175ユーロ、5皿200ユーロという軽めのコースもあり、料理のカスタマイズが可能だ。 「ここはレストランですから、ゲストには自由に料理を楽しんでいただきたい。ですからメニューの皿数や構成を自由に変えることももちろん可能なのです。」とマッシミリアーノ。彼自身が持つ明るいキャラクターとホスピタリティに加え、どんなリクエストにも対応可能な柔軟性と懐の深さ。これこそが「レ・カランドレ」を居心地の良い店にしている最大のエレメントではないかと思う。今回試したのはマッシミリアーノの白紙委任状「カルタ・ビアンカ」だ。

Cappuccino Murina カプチーノ・ムリーナ

マッシミリアーノが20年以上作り続けている「レ・カランドレ」の代表的料理。原点は2002年当時すでに発表していた「イカスミのカプチーノ」にあるが、これはその究極の進化系だ。ムリーナとはヴェネツィアン・ガラスの代表的手法のひとつで、渦巻き状の文様のこと。マスカルポーネとジャガイモで作った滑らかなピューレの下に温かいイカスミのスープが隠れており、ピューレの上にはムリーナが作り出す万華鏡のごとく、さまざまな色彩が混ざり合って美しい文様を描いている。緑はほうれん草、赤はビーツ、黄緑はプレッツェーモロ、茶色はウニ、黒はイカスミ、そして仕上げのひとしずく、オリーブオイルのダイレクトな旨味。そうしたさまざまな構成要素はひとつひとつ味わうのではなく、大胆にも混ぜて食べてほしいとマッシミリアーはいう。スプーンを入れるのも惜しいような美しい料理なのだが、口に含んでみるとそれはまさにヴェネツィアの味。ウニやイカスミの香りはヴェネツィアのペスケリア市場を思い起こさせる。シグネチャー・ディッシュ、という言葉はまさにこの料理のためにある、と思えてならない。

Biscotti triglia con zucchine al basilico e crema di ricci di mare ヒメジのビスコッティ バジリコ風味のズッキーニとウニのクリーム

薄くてぱりぱりのチャルダの中に柔らかくマリネしたヒメジをはさみこみ、バジリコの香りのするズッキーニのスプーマで挟み込んである。花ズッキーニの中身はリコッタ、クリームはウニとイカスミ、ジャガイモ、サフラン。上質なウニとイカスミが作り出す独特の香りと味わいはこれから先も口にするたび「レ・カランドレ」を思い出させることだろう。

Ricotta d’uovo con crema d’ostriche caviale, astice crudo e asparagi 卵のリコッタ 牡蠣、キャビア、オマールとアスパラガスのクレーマ

いたずら好きなマッシミリアーノは、自宅でゆで卵を裏ごしし、娘に目をつぶって食べさせたら「リコッタだ!!」と答えたという。そうしたエピソードから生まれた料理。確かに目をつぶって食べてみるとその舌触りと味わいはリコッタを思い出す。そこにオマール、キャビア、牡蠣のスース、赤海老という魚介類。卵とキャビアの相性の良さに白アスパラの歯ごたえがアクセント。仕上げに軽いベルガモットの香り。

Spaghetti di soya con salsa di pomodoro “GASPACHO” con aragosta e crema di avocado 大豆のスパゲッティートマトソース ガスパチョ風 伊勢エビとアボカドクリーム

冷製緑豆春雨を使った冷たいパスタ。春雨はグルテンフリー・パスタとしてもイタリアで現在注目されている。ヴィネガーと香味野菜が効いた冷たいトマトソースはガスパチョ風。イカはほぼ生の火入。

Scarpetta スカルペッタ

天然酵母の自家製パンにはタコの吸盤がひとつ。スカルペッタとはパンで皿をぬぐう行為のことで、この場合はパンをディップ上のソースにつけて食べる。EVオリーブオイル、カラスミ、オレガノ、ジャガイモのクリーム、オリーブオイルの美味しさをダイレクトに感じる。

Risotto con cozze, vongole, gamberie triglia ムール貝、アサリ、エビ、ヒメジのリゾット

リゾット生のムール貝、生のあさり、生のエビ、生のヒメジ、以上全て余熱で少し火が入る感じ。添えられたアーティチョークのアイスクリームがほろ苦くて美味しい。温と冷のコントラスト。

Rombo con nocciole, capperi e caffe ヒラメ、ヘーゼルナッツ、ケイパー、コーヒー

低温調理で柔らかく火を入れたヒラメにほろ苦いビエトラ、ヘーゼルナッツクリーム、ケイパー、コーヒーパウダー、やや酸味のあるレモンソース。酸味、苦味、ナッツのコクで淡白なヒラメに味をプラス。

Moeche Imbottite e fritte モエーケ・インボッティーテ・エ・フリッテ

ヴェネツィア湾でとれるソフトシェルクラブ、Moeche=モエーケの中に詰め物を施し(パンとカニの肉?)パン粉とつけてカリっとフリットに。それだけでも美味しいが生姜が効いたジンジャークリームソースで後口もさっぱり。 ドルチェはまさにマッシミリアーノの独壇場。最初に登場したのは空っぽのスープボウル。果たして何か来るのか?と思っていても一向に登場する気配がない。よく見ると皿の糸底部分にフィルムが貼ってあったので、ボウルをひっくり返して見るとなんと糸底部分に金箔を貼ったカスタードクリームが隠されていた。

Illusione (Gioco al cioccolato 2019) イリュージョン・チョコレートの遊び2019

イリュージョンと題されたチョコレートの盛り合わせ。ルアーや磁石などを使い遊びながらチョコレートを楽しむマッシミリアーノらしい遊び心のドルチェ。  

Risotto allo zafferano, liquirizia e chorizo con consomme di asparagi アスパラガスのコンソメで炊いたサフランとリコリス、チョリソーのリゾット

イリュージョンを食べ終えて全部終了したかと思ったところで「これはうちのスペシャル・リゾット、一口だけでもどうぞ」と鍋のまま持ってきてくれたのがサフランとリコリスのリゾット。アスパラガスのコンソメで炊いてあり、チョリソーが辛味のアクセントに。なによりもリコリスの爽やかな香りとほのかな甘みがドルチェの後でもまだ食べたい気分にさせてくれる。  
レ・カランドレ Le Calandre
www.alajmo.it
Via Liguria,1 Rubano (PADOVA)
Tel +39 049 630303

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