古代ローマ遺跡と共存するマルケージ派リストランテ「ジェリウス」
トレヴィーゾから北東30キロにある、ポルティチ(柱廊)が張り巡らされた瀟洒な街オデルツォ。歴史は古く、紀元前11世紀には商業の地として栄え、古代ローマ時代にも自治権を認められた国として繁栄を誇った。その足跡は今も鮮やかに残り、ローマに次いで街に占める遺跡率の高い街として知られる。そしてトレヴィーゾ県ではトレヴィーゾの次に観光客の数が多い街である。 遺跡の他に、この街を訪れるべき理由は、旧市街の中心、ドゥオモのすぐ近くにあるリストランテ「Gellius」にある。まず、古代ローマの遺跡の上という非常に特殊なロケーション。リストランテフロアから古の屋敷や道路、フラントイオ(搾油設備)などの遺跡が見下ろせるのだ。そしてその下、まさに遺跡と同じレベルにはビストロ「Nyù」がある。ここまで遺跡と“共存”している飲食店は、ローマにもない。店内インテリアはシンプルなコンテンポラリーデザインで、遺跡とは真逆ながら違和感はない。残念なところを探そうにも見当たらない、絶妙のバランスである。 こういう特殊なロケーションの店は時としてレストランとしてはがっかりというケースが少なくないが、ここはそんな心配は不要だ。2000年からシェフを務めるアレッサンドロ・ブレーダはコネッリアーノ出身。ホテル学校卒業後、グアルティエロ・マルケージの下で3年余り修業した後、ミュンヘン「タントリス」、フィレンツェ「エノテカ・ピンキオーリ」、ロンドン「フォーシーズンズ」を経て独立。コネッリアーノ郊外に自店を開いた。そして6年後に現在の店のシェフに就任、2004年にミシュラン一つ星を獲得、現在も星を維持している。 過去の雑誌やwebのインタビューでは、素材へのリスペクト、季節感の大切さ、そして料理人としてのたゆまぬ研鑽を繰り返し強調しているアレッサンドロ・ブレーダ。真剣に料理に向き合っている人に、今回は大変申し訳ないことにIl Fiore della Saluteでもらったラディッキオ・ロッソ・ディ・トレヴィーゾのタルディーヴォを持ち込み、料理してもらった。アミューズは生のタルディーヴォにワカモレソース、カンパリのゼリーの組み合わせ。それぞれ別々に味わう仕掛けだが、どちらにも共通するのがほろ苦さ。しかし、異なる性質の苦味に気づかされ、どちらにも木の実が添えられているのがまたその違いを際立たせる。 続いて前菜は、エビのソテーと軽く火を通したタルディーヴォ、ボルロッティ豆のピュレ。香ばしいエビの存在感にタルディーヴォのミネラルの旨味がよく馴染み、豆の甘みがそれに続く。飽きのこない無限の一皿である。そしてプリモはラディッキオ・ロッソとくれば必ずその名が挙がるリゾット。米とともにじっくり炒め煮にし、仕上げにしっかりとソテーしたタルディーヴォがあしらわれている。ほろ苦さを堪能する伝統の一品にアクセントとして加えられているのがヘーゼルナッツのソースとかぼちゃのパウダー。ほんの少しでコクとくっきりとした香りをもたらすソースと優しい甘さのパウダーのおかげで、おなじみの郷土料理がアレッサンドロ・ブレーダの料理にと変化していた。プリモとともにコントルノとして軽く火を通したタルディーヴォのソテーが供されたが、みずみずしさと凝縮した旨味に満ち、単独でこれだけの存在感を放つタルティーヴォの底力には、参りましたというほかはなかった。アレッサンドロ・ブレーダがリスペクトする素材の力とはこういうものを言うのだろう。 即興の料理の完成度が高いというだけで賞賛するつもりはないが、常に素材と向き合っているからこその引き出しの多さを感じさせてくれた。古代の遺跡、ラディッキオ・タルディーヴォの素材力、そしてアレッサンドロ・ブレーダの料理に対する姿勢、この三つがオデルツォで手にした生涯忘れ得ぬ記憶である。SAPORITAをもっと見る
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