プレスティージュラインからスプリッツまで幅広くプロセッコを展開するワイナリー「ヴァルド」
年間生産量4億6400万本という世界最大のスパークリングワイン銘柄プロセッコは、その75%が輸出されている。残りの25%は国内マーケットで流通しているが、価格が手頃であることからスーパーマーケットも主要な販売ルートだ。どのスーパーでも必ず見かけると言っていい銘柄が2、3あるが、その中の一つが「Valdo」。というと、安酒のイメージを持たれてしまうが、事実は違う。「ヴァルド」はスプマンテに特化することで、その限られた世界をとことん研究し、安定した品質と幅広いバリエーションを確立したメーカーである。 設立は1926年。現在、プロセッコDOCGの本拠となっているヴァルドッビアデネにSocietà Anonima Vini Superiori(意訳すれば“優れたワインを造る無名会社”)という名で複数の企業家が共同で立ち上げた。ヴァルドッビアデネ産のプロセッコ・スーペリオールとカルティッツェ製造に限定したメーカーとしては初のワイナリーである。そして1930年代、順調に成長した同社を現オーナーであるボッラ家が買収。後の1951年、「ヴァルド・スプマンティ」と社名を変更した。初代社長であるセルジョ・ボッラは国内のマーケット開拓とともに早くから輸出にも力を入れ、プロセッコの名をイタリア内外に広めた功労者の一人である。現在も、年間生産量1600万本のうち50%は輸出、50%は国内流通のバランスを崩していない。 本社はヴァルドッビアデネの街中にあり、元々はそこでワインも造っていたが2000年代初めに町のすぐ外に製造拠点を移した。本社には記念碑的な小規模醸造設備とバリック庫があり、直売コーナーも併設している。先にも述べたが、スプマンテに特化しているだけあって、その中でのバリエーション展開は非常に幅広い。プレスティージュラインではDOCGヴァルドッビアデネ・プロセッコ・スペリオール、カルティッツェなどの様々なキュヴェシリーズが7種類、DOCGはフラッグシップの「マルカ・オーロ」やカルティッツェなど3種類、DOCはDOCトレヴィーゾ・ミッレジマートも含む4種類、そして最近特に注目度が高いというビオロジコ(オーガニック)もある。さらにはプロセッコ以外のスプマンテも、ファランギーナやモスカート、ペコリーノといったイタリア品種で造ったり、クールなボトルデザインを柱としたシリーズや、プロセッコの枠に当てはまらないものをあれこれ手がけている。中でも女性に人気なのは、著名なイタリア人イラストレーターがデザインする「フラワー・ジャングル・エディション」。ポップで華やかなボトルのロゼで、クリスマスや日本では花見のシーズンに売れるという。 さて、今回の試飲では、プロセッコDOC5種類が登場した。①DOCトレヴィーゾ・ブリュット、②DOCエクストラ・ドライ、③フリウリの畑のキュヴェ・イ・マグレディDOCエクストラ・ドライ、④DOCトレヴィーゾ・エクストラ・ドライ・ミッレジマート2018、そして⑤DOCブリュットである。①はアウトクラーヴェ2次発酵3ヶ月、ブリュットだが非常に柔らかく、生き生きとした酸とのバランスが良い。②はヴェネト州の複数の畑の葡萄のブレンドで、2次発酵は2ヶ月、際立った強さはないが、気兼ねなく楽しめる。③はヴェネトとは違った小石の多い土壌で葡萄が地中深くに根を張るため、りんごや花の香りに相まって微かなミネラル感が後から立ち上る。④は良い葡萄ができた区画を複数掛け合わせている。年によっては造らないが、2018年は気候に恵まれた良年で、ふくよかな香りが心地よい一本。⑤は2次発酵6ヶ月と長いだけあって、酵母による香ばしさがプロセッコ特有のフルーティ・フローラルの香りの背後に感じられるエレガントな仕上がりだった。 こんなにたくさんの種類を作っていて混乱しないのかと思うが、畑一つ一つが異なる性格を持つのだから、ワインもその性格をなるべく反映すべきというのが「ヴァルド」社の基本理念。畑ごとに細かく分けて一次発酵を行い、2次発酵も2ヶ月から1年とワインの性格に応じて幅を持たせている。スプマンテ愛に満ちたメーカーなのである。

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