一夜限りのダ・ヴィットリオ招待ディナー
去る2019年11月18日、六本木のグランド・ハイアット東京にて招待客限定のスペシャル・ディナーが行われた。ゲスト・シェフはイタリアが誇るベルガモの三つ星「ダ・ヴィットリオ Da Vittorio」のエグゼクティヴ・シェフ「キッコ」ことエンリコ・チェレア。今回は「ハマナルキ」の要請を受け、全て液体塩こうじを使った料理でメニューを構成、ゲストにふるまうという一夜限りの特別なディナーだった。実は東京でのディナー開催に先立ち、9月に一部ジャーナリストを招待しての限定試食会が行われており、わたしも招待されていた。その模様は料理通信WEBに掲載してあるのでご興味あるかたはこちらをお読みいただきたい。 その液体塩こうじだが、キッコいわく肉や魚のマリネ時間を大幅に短縮できるのみでなく、味付けにも使えるので非常に興味深い製品だ、という。「ダ・ヴィットリオ」は大人数向けのバンケットやケータリングも行なっているので、上手く使えば調理時間を短縮でき、効率よく仕事ができるというわけだ。 さて、この夜のメニューはこんな内容だった。まず食前酒にはハナマルキの甘酒を使ったアペリティーヴォでアプリコットを思わせる芳醇な香り。続いてベッラヴィスタのフランチャコルタ Alma Gran Cuvèeとともに登場したのが「栗とフォワグラ 液体塩こうじマリネ」だ。通常7〜8時間マリネするところ液体塩こうじを使って1時間に作業時間を大幅に短縮することができたというフォワグラを、栗のピューレの中に仕込み栗に見立てた料理。滑らかさ、上品さ、液体塩こうじを使ったキッコの一連の料理の中ではもっとも完成形に近いのではないだろうか。「ヘーゼルナッツとカンタブリア産アンチョビ、トンナートソースのクロスティーニ」はツナソースに液体塩こうじをつかい滑らかさとともに魚醤のニュアンスを加えたものだ。
「マグロのスパゲッティ」は「ダ・ヴィットリオ」のスペシャリティのひとつで過去2度食べたことがある。スパゲッティとはいえパスタは使わず、マリネしたマグロをジュリエンヌにしてパスタに見立てたもの。ピスタチオのクランブルとバーニャカウダソースで食べると上品なツナマヨを思わせる仕上がり。 「液体塩こうじでマリネしたスカンピのグリル」はともすれば活きが良すぎてしまった食感になりがちなエビのグリルだが、液体塩麹でマリネすることで新鮮なのに滑らかでとろけるような食感を作り出した。レタスの硬質な歯ごたえとのコントラストとフランボワーズ・ソースの酸味がアクセントを加える。「ポルチーニ茸のリゾットと液体塩こうじでマリネした鳩のカルパッチョ」の鳩は、試食会に比べると滑らかさが増している。「牛肉のブラザータ、プラムと液体塩こうじのジェラティーナ」は前回同様の出来栄えで、塩こうじは牛肉のマリネと、ジェラティーナ両方に使ってある。そしてデザートも液体塩こうじを使った「りんごのミッレフォッリエ、液体塩こうじのカラメル・ムース」。生クリームのモーソースとキャラメルに液体塩こうじを使い、味わいはまさに塩キャラメル!!イタリア料理と日本の調味料は、非常に高いレベルで見事なハーモニーを奏でた、といえるだろう。液体塩こうじは、味噌や醤油のように個性の強い日本的な味が前面に出るのではなく、あくまでも食材をいかす調味料として影の働きをするところに、イタリア料理においても無限の可能性があるように思えた。 料理を終えたキッコと控え室で合流し、成功を祝して白ワインで乾杯。今回キッコをサポートしたのは「ダ・ヴィットリオ」で働いた経験がある3人の日本人料理人だが、これから彼らと打ち上げに行くという。そして翌日は成田から帰国の途につくというのに、その前に早起きして豊洲市場へ行くというではないか。「2泊4日で日本に来て、観光する時間もない。本当に料理バカだよな」というキッコだが、このストイックさと勤勉さ、そして飽くなき探究心こそが3つ星を維持する原動力なのだと、いつものことながら平身低頭。さぁ、明日は早いから早く食事に行こう、とスタッフを連れて六本木の街に消えていったキッコの後ろ姿は寝不足や時差ボケを全く感じさせない、たくましいものだった。  

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