ジェリナス Gelinaz x アルテレーゴ Alter Ego !!シャッフル・ディナー
2019年12月3日、世界38ケ国138のファイン・ダイニング・レストランが参加して行われた世界的ガストロノミー・イベントが「ジェリナス! シャッフル・ステイ・イン・ツアー Gelinaz! Shuffle stai in tour」だ。これは参加した各シェフがそれぞれレシピを提出。そのレシピはオーガナイザーのもとでシャッフルされ、世界中のシェフの元に届けられるというユニークなシステムだ。つまりスペイン料理店に寿司のレシピが届くこともあれば、フランス料理店に中華料理のレシピが届く場合もありうる。レシピ提供者の名前は伏せられているので、当然のことながら見知らぬレシピを手にした各シェフは試行錯誤しながら独自の解釈を加えつつ一夜限りの特別メニューに取り組む。つまり世界規模のシャッフル・レストラン・ナイトだ。 参加レストラン一覧は公式サイトに掲載してあるので参考にしてほしいが、今回日本から参加したのは「INUA」「鮨m」「白坂」「NARISAWA」「傳」「ブルガリ・イル・リストランテ ルカ・ファンティン」「アルテレーゴ」「ジ・アンタイトルド」の8軒。世界17のタイムゾーンに別れ、各タイムゾーンごとに食事が一斉スタート。食事の最後に各レストランを担当するアンバサダーからレシピ提供シェフの名前が明かされる、というアガサ・クリスティ的サプライズに満ちた一夜が繰り広げられたのだ。今回わたしが参加したのが徳吉洋二シェフの「アルテレーゴ」で、最後にシークレット・シェフの名前を発表するアンバサダーの役割も引き受けることになった。 徳吉シェフ曰く「今回のレシピは多分メキシコ料理だと思うんですけど、どの国のレストランかはわからない」とのこと。徳吉風解釈のメキシコ料理、というまさに一夜限りのスペシャル・ディナーは2019年12月3日18時、日本地区の他のレストラン同様一斉にスタートした 最初に登場したのは「Falafel Mexican Style」ファラフェルとは中近東でよく食べられるひよこ豆のコロッケのことだが、パプリカを混ぜたトマトソースやコリアンダー、ライム、生タマネギ、ハラペーニョ、チリの酢漬けなどの薬味とともにカスタマイズして食べるスタイルだ。この夜は「アルテレーゴ」の松本時宙ソムリエによるワイン・ペアリング付きだったがこれがまた素晴らしかった。最初に登場したのはラツィオのRibolie Bianco Frizzante “Ribelà 2018” マルヴァジーア・ディ・カンディア・エ・ラツィオ60%、トレッビアーノ・ジャッロ・エ・トスカーノ30%、ボンビーノ5%、ベッローネ5% フラスカーティにわずか2haしかないぶどう畑から作る微発泡性のワインで、ステンレスタンクで自然発酵させたあと瓶内二次発酵させて作る。11,000本しか作らない非常にレアなワインだが、ノン・フィルター、ナチュラルな味わいでスパイシーなファラフェルと非常によくあった。 次に登場したのがレシピ外の料理「ラヴィオリ・イン・ブロード」非常に滑らかで軽い自家製リコッタをつめ、ほろほろ鳥のブロード、プレッツェーモロ・オイルで仕上げた徳吉シェフの真骨頂。徳吉シェフというと、とかくアバンギャルドな料理に目が行きがちだが、その実長年モデナで暮らしただけに手打ちパスタのレベルは非常に高く、しかも平凡ではないプレゼンテーションでゲストを喜ばせてくれる。そしてその味はなによりもイタリアそのものなのだ。あわせたワインは同じエミリア地方、標高400mのコッリーネ・ピアチェンティーネにあるワイナリーAndrea CerviniのBianco Vino del Poggioだ。この地はかつてハンニバルとローマ軍が戦った激戦地で、いままで農業が行われてこなかった全くの純粋無垢の土壌が残っている。このオレンジワインはマルヴァジーア・ディ・カンディア100%を自然発酵させマセラシオン3ケ月、12ケ月の大樽熟成のあと12ケ月瓶内熟成させて作る。柿、オレンジ、チェードロといったニュアンス。「ラディコンみたいですね」と松本ソムリエに感想を述べたところ「ラディコンもあとでお出しします」とのことだった。 次の料理は「海老 ビスク ブレザオラ」オリジナルレシピはフレッシュな生の海老とややスモーキーなビスクソース、炒めたタマネギ、これらをメキシコ産緑のトウモロコシで作るトルティージャで巻いて食べるのだが徳吉シェフはこれに神戸牛で作ったブレザオラを加えた。「ホワイトモノトーン」や「プロシュットと漬けマグロ」など海の素材にイタリアの動物性素材を加えるのは徳吉シェフならではのスタイル。旨味が増幅するこの料理はなんといっても神戸牛のブレザオラが力強かった。ワインはCeraudo Grayasusiはガリオッポ100%で作るカラブリア産のビオ・ロザート。「ピンク」ではなくあくまで濃赤のロザートはブラックベリー、ラベンダーといったフレッシュで清廉な香り。 「牡蠣とブロッコリー」はオリジナル通りのソテーだが「それじゃつまらないので黒キャベツとパースニップのパウダーで香りを加え、ドリッピングで仕上げました」と徳吉シェフ。ドリッピングとはこれまでになんども書いたがグラルティエロ・マルケージがジャクソン・ポロックのアクション・ペインティングにインスピレーションを得た手法でソースを皿に投げつける手法。マッシモ・ボットゥーラやダヴィデ・オルダーニらがいまも踏襲し、発展させて料理に取り入れている。徳吉シェフはボットゥーラのセコンドシェフとして「サイケデリック・ステーキ」を初めて発表した2008年の思い出だという。鳥肌もののプレゼンテーション。ここで登場したのがRadikon Ribolla 2010 「今まで開けた中でも完璧なコンディションです」と松本ソムリエがいうだけにアプリコット、干し柿、しかし甘くなくあくまでもドライで酸もフレッシュ。先日も車で走ったが、フリウリとはいえほぼスロヴェニア国境に位置するワイナリーで4ケ月のマセラシオンのあと40ケ月大樽熟成して作る。1995年がファーストヴィンテージ、イタリア最初のオレンジワインのひとつ。 「アボカド 牛タン マカダミアナッツ」はストリートフード風一口サイズのパニーノだが、オリジナルレシピに牛タンとサルサ・ヴェルデをくわえた。イタリア郷土料理を一口サイズに凝縮させ、なにげなく組み合わせるのは徳吉シェフならでは。ワインはグリニョリーノを使ったMarcaleone Crealto色は浅いがタンニンがしっかり、牛タンの脂を洗い流してくれる。「鳩」は「TOKUYOSHI」でもしばしば登場するが、今回はレシピ通り1週間熟成させたもので、胸肉は滑らかで上質の牛肉のよう。オレジナルレシピではカボチャとカカオだったが、徳吉シェフはむかご、自然薯、根セロリをあわせた。ワインはAmarone, Meloni Il Velluto エレガントで滑らかな飲み口は上質なバルバレスコかと思った。甘くなく、重くなく、タンニンは優雅。締めの「土鍋ご飯 ホロホロ鳥 レタス」は実はタコライス。鳥取の米をホロホロ鳥のブロードで炊き、炒めたひき肉のラグー、細切りにしたレタスとあえて食べる。時折コリアンダー、ミント、みじんぎりのタマネギなどをくわえるとさらに味は深みを増す。ここでそろそろシークレット・シェフ発表の時間になった。ここまでの流れで徳吉シェフは当然メキシコ料理、と予想していたが結果はいかに? 注目のシークレット・シェフは徳吉シェフの予想通りメキシコ。メキシコ・シティ「ループ・ワイン・バー Loup Wine Bar」のホアキン・カルドーズ Joaquin Cardosoだった。 そして締めのデザートは「チョコレート・レクチェ」オリジナル・レシピではマメイという非常に甘いメキシコの果物だったが手に入らないので、とても甘い洋梨ル・レクチェで代用し、洋梨とチョコレートという相性のよい組み合わせに変更。ホワイトチョコレートのジェラートも非常に滑らか。「カンノーロ・シチリアーノ」は極上の自家製リコッタを詰め、ピスタチオをトッピング。仕上げにライムの皮を削り遠いメキシコへメッセージ。 今回初参加した「ジェリナス」は非常にユニークで斬新な試み。同時刻一斉に行われるので複数の店で体験することは叶わないが、ただでさえ一度は訪れてみたいレストランが世界とつながるのだからファンにしてみたらたまらない。今回も同席した若者たちは料理学校の生徒で「一度徳吉シェフの料理を食べてみたくて」参加したという。それにしても毎回思うのが徳吉シェフの懐の深さ。イタリア料理の引き出しを自由自在に開け閉めし、さまざまな料理と組み合わせることができるのは日本人で彼以外いないのではないだろうか。ちなみに「アルテレーゴ」は2020年度版東京ミシュランで一つ星を獲得。あらためてお祝いを申し上げたい。ちなみに「ジェリナス」公式サイトは以下の通り。来年度また世界のどこかで参加できたら、と願う。 GelinazSAPORITAをもっと見る
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