イタリア共和国からオバマ前大統領に贈られたリキュール「エリズィール・ガンブリヌス」
第44代アメリカ合衆国大統領に就任したバラク・オバマ氏へ、イタリア共和国が祝いの印に贈った「Elisir Gambrinus」は、ヴェネト州トレヴィーゾ県のレストラン&ワイナリー「ガンブリヌス」が170年以上前から作り続けているリキュール。赤ワインをベースとした甘くスパイシーな味わいで、ガーネットを思わせるとろりとした濃い赤色が印象的だ。始まりは1847年、ジャコモ・ザノットが強い酸味のラボーゾ種のワインをどうにか飲みやすくできないかと試行錯誤して編み出した。ラボーゾの赤ワインに甘蔗糖、グラッパ、ハーブや木の根、スパイスを加え、オークの樽で熟成させる。このリキュールは、ザノット夫妻が営むロカンダ(旅籠)の客の間で評判となり、“Elixir d’Amor(愛の妙薬)”と呼ばれるようになったという。アマーロなどリキュールのレシピはどのメーカーも企業秘密だが、ガンブリヌスのエリズィールのレシピも代々わずか二人にだけ伝えられている。当初は男性向けと女性向けの二種類を造り、女性向けはアルコール度数を抑え、甘味を強くしていたが、一子相伝ならぬ二子相伝のレシピは少しずつ改良を加えられて、今は一種類のみである。 ガンブリヌスは現在、エリズィールの他にスティルワイン、プロセッコも造っている。希望すれば、エリズィールや赤ワインが眠るバリック庫も見学可能だ。アルプスから地下を流れてきた水がガンブリヌスの敷地内で地表に出てリアと呼ばれる小川になっており、バリック庫はこのリアの水を利用して、一年中一定した温度と湿度を保っている。この庫内には昔のボトルや写真なども展示されているが、ちょっと面白いものを目にした。木箱にサッシカイア、バンフィのブルネッロ、オルネッライアとともにエリズィールが並んでいる。聞けば、イタリア共和国が各国大使などへ渡す贈り物の一つとして選ばれたのだという。トスカーナの有名ワインと肩を並べてイタリアを代表するリキュールということか。 初代ジャコモから現在の4代目まで、ザノット家は葡萄栽培、ワイン造りと並行してロカンダの営業も守り続けてきた。特にリストランテとオステリアは地元の人々で常に賑わっている。また、春から初秋までは30,000㎡の庭でのアペリティーヴォが人気だ。数百年という樹齢の木々が鬱蒼と繁り、緑の芝生では孔雀や鶴が散歩し、リア川では白鳥や黒鳥が優雅に漂っている。水の中を覗き込むと澄んだ水を好むチョウザメがゆったりと泳いでいたりして、なかなか楽しい(このチョウザメは時々レストランのメニューに上る)。その昔、アクイレイアまで旅する人が一息ついたのがこの庭園だそうで、ここなら存分にリフレッシュできただろうと思う。この庭園の他にもう一つ見ておきたいのが、この地方独特の葡萄棚ベッルッセラ方式の葡萄畑だ。Sistema a Bellussi、またはa raggi、Bellusseraとも呼ばれるこの方式は、1882年ベッルッシ兄弟によって考案されたもので、うどんこ病から葡萄を守るために高く作り、葡萄の収量も最大限に高められるとして広まった。棚が高いのでその下で野菜などを栽培することも可能だったという。今ではほとんど廃れており、ガンブリヌスでは伝統を守るために一部だけこの方式を残している。 オステリアでは地元の人に混ざって、エリズィールのスプリッツを飲んでみた。クローブやシナモンのようなオリエンタルな香りが心地よく、プロセッコの酸味がエリズィールの甘みを程よく和らげてくれる。ビター系のスプリッツのような苦味や生薬のような香りはほとんどないので飲みやすい。つまみはバッカラ・マンテカート、そしてチョウザメのカルパッチョ。ロール状にしたチョウザメの身を低温調理し、ごく薄くスライスしたものだが、クセはほとんどなく薄味のハムのよう。カボチャのソースを添えたトウモロコシ粉のニョッキは、ぷるんとした優しい弾力とブロードのしっかりした味がなんとも美味い。奇を衒うことなく、シンプル丁寧に郷土の味を守っている店である。SAPORITAをもっと見る
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