Prosecco DOCを巡る旅の終わりとヴェネツィア・バーカロの記憶
Prosecco DOCを巡る旅の最終目的地はヴェネツィア。伝統的な食前酒スプリッツはじめ日常的にプロセッコが飲まれている地だ。毎回ヴェネツィアに来て思うことだが、この街は特殊な形態ゆえに域内では自転車含む車両の通行が一切認めておらず、船を利用しない場合の移動は徒歩のみ。ゆえに朝から一杯飲んでも大丈夫、という文化が日常生活に染み込んでいるのではないだろうか。特にペスケリア市場界隈にバーカロが集中しているのは、何も朝起きてまずは一杯、という飲み助が多いというわけではなく(多いのかもしれないが)まだ陽も上らぬ早朝から市場で働き、ひと仕事終えた男たちが昼食がわりに一息つく、そんな文化が色濃く反映されているのがこのバーカロ=酒場、なのではないかと思う。 今回はまず「アッラ・ヴェドヴァ Alla Vedova」をに顔を出した。カウンターでプロセッコを飲み、揚げたてのポルペッティーナを頬張り、茹でダコとジャガイモのチケーティを食べる。やはりこの店の居心地の良さと料理の味は格別で、何度訪れても飽きることがない稀有な店のひとつだ。 ついでリアルト橋を渡り、老舗酒場「ド・モーリ DO MORI」に行く。名物の一口サイズサンドイッチ「フランコボッロ」をつまみ、冷えたポルペッティーナを齧る。バッカラ・マンテカートは既製品の味がした。この店では黒板にグラスワインの種類が書かれているので再びプロセッコを注文。すると見慣れたいつもの男性スタッフ、ルーディが注いでくれたのはボトルになんのラベルも貼ってないスパークリングワインだった。ここで一緒にいたProsecco DOC協会の女性スタッフが抗議した。PROSECCO、と看板に掲げている限り少なくともエチケットが貼られた本物のプロセッコを注がなければいけない、と。つまり本当にそのボトルの中身はプロセッコなのか?という意味の質問なのだが、これに対してルーディは「はい、これはスパーリングワインなのでプロセッコみたいなものです」と答えた。 古くからイタリアのバールや酒場では全てのスパークリングワイン=プロセッコ、と故意にではなく(と思いたいが)認識不足ゆえに混同されている場合が非常に多い。それはバッカラとストッカフィッソが混同されているケースに似ているのかもしれないが、ヨーロッパ最多のDOP、IGP食品を誇るイタリアでは各協会がこうした混同、誤認、違反に対して非常に厳しくコントロールしている。先日も某大手スナックメーカーが無断で「プロセッコ味」のポテトチップスを発売したのをPROSECCO DOC協会が発見し提訴。販売が差し止められたばかりなのだが、このケースは誤認ではなく明らかな無断使用、違法である。 もう一軒だけ行こう、と向かったのは同じペスケリア市場にある「バンコジーロ Bancogiro」この店は2月にも訪れたが、月並みではなく少し手を加えたヴェネツィアの味が楽しめる。ゴルゴンゾーラとラディッキオのクロスティーニ、マッツァンコッレとバルサミコのクロスティーニ、サルデ・イン・サオール、そして非常に滑らかなバッカラ・マンテカート。見れば次から次へと地元の男衆がクロスティーニとワインを求めて店に入ってくる。ほとんどの男たちが求めるのはプロセッコ、あるいはスプリッツ。ラベルが貼られたワインをきちんと抜栓し、いっぱいずつ丁寧に注ぐ姿は見ていてとても気持ちが良い。プロセッコの蔑称で「プロセッキーノ=プロセッコでも」などと呼ばれることもあるが食文化は食文化、法律は法律として遵守しなければいけない。特に現代社会は人々が口に入れるものに対しては敏感になる一方なので食品の出自はきちんと明らかにすることが求められている。おそらくはイタリアで最もプロセッコが飲まれている地、ヴェネツィアでさえこのようなことがおこりうるのだからエデュケーションとコントールは常に必要なのです。と、PROSECCO DOC協会の女性スタッフはため息をつきながらつぶやいた。Alla Vedova
Ramo Ca' d'Oro, 3912 Venezia VE
Tel:041 528 5324
Do Mori
Campo S. Polo, 429 Venezia
Tel:041 522 5401
Bancogiro
Campo San Giacometto, Ponte di Rialto, 122 Venezia
Tel:041 523 2061
SAPORITAをもっと見る
購読すると最新の投稿がメールで送信されます。