ナチスに占領された古い石造りの醸造庫 チャボリッチ
「チャボリッチ Ciavolich」はアブルッツォ州都ペスカーラから南へ約20km、キエーティ県ChietiミリアニコMiglianicoにある老舗ワイナリーだ。名前が示すようにチャボリッチはイタリア出身でなくブルガリア出身の毛織物商人で1500年代にアドリア海を渡ってミリアニコの地に移住、1853年にワイナリーを開く。ミリアニコ中心部、サンミケーレ・アルカンジェロ教会の正面にあるチャボリッチ館は現在はゲストハウス「ヴィネリア・チャボリッチ」として使われているが、現存するアブルッツォ最古の醸造所のひとつだ。当時は地上階でぶどうを踏んで果汁を抽出し、地下の醸造所で発酵させていた。 現オーナーのキアラ・チャボリッチChiara Ciavolichに招かれて館の中を見せてもらうと、確かに地下には石をくりぬいて作った広大な地下室があった。「でも、この地下室は第二次世界大戦中には避難所として使われ、最後には悲しい歴史が待ち受けていたのです」とキアラ・チャボリッチは言った。 それは1943年のことだ。7月に連合国がシチリアに上陸した後、ムッソリーニに変わったバドリオ内閣が連合国に休戦を宣言。するとドイツ軍がイタリアに侵攻して9月下旬にはイタリア半島をほぼ占領。するとターラントに逃亡したバドリオ内閣は今度は連合国の一員としてドイツに宣戦布告。アブルッツォ周辺は連合国とドイツ軍の最前線となった。10月にはミリアニコにドイツ軍が侵攻、町の最上部に位置していたチャボリッチ館は前線司令部としてドイツ軍に接収され、チャボリッチ家は地下のカンティーナで生活することを余儀なくされたのだ。しかしドイツ軍の撤退が決まった12月8日にはナチス親衛隊SSがチャボリッチ館を訪れ、地下に逃れ暮らしていたチャボリッチ家の人々に向かって機関銃を乱射した。この時難を逃れて脱出したのが当時14才だったジュゼッペ・チャボリッチ Giuseppe Ciavolich。避難先のマルケ州で終戦を迎えると徒歩で生まれ故郷のミリアニコへと向かう。途中カナダ兵のトラックに乗せてもらうという幸運にも恵まれ、無事にチャボリッチ館へと生還。戦後の荒廃の中ワイナリーを立て直しはじめる。1960年代にはロレート・アプルティーノ Loreto Aprutinoにあるブドウ畑も相続。2004年にはジュゼッペの娘キアラ・チャボリッチがわずか26才の若さで父の後を継ぎ、現在も夫のジャンルカGianlucaとともにこの地でワインを作り続けている。 この夜はチャボリッチ館に招かれての招待ディナー。キアラの隣に着席し、チャボリッチの一連のワインを飲みながらのディナーが始まった。前菜はCarpaccio di manzo, Pallotte cac’ e ov, pancottoあわせたのはPecorino Fosso Cancelli 2015 Colline Pescaersi IGT パッロッテ・カチョ・エ・オーヴォというのはアブルッツォの郷土料理でペコリーノチーズと卵でポルペッティーネを作り、トマトソースで煮込んだもの。肉を使わないポルペッティーネ、クチーナ・ポーヴェラ、しかしこれがまた実に滋味深くて美味しいのだ。それよりも素晴らしかったのがペコリーノ・フォッソ・カンチェッリ。野生の種酵母=Pied de cuveを使いフレンチオークのトノーで10日かけて発酵。その後スラヴォニア・オークの大樽で熟成させて作る。鮮烈なバジリコとセージの香りが素晴らしい、いままで味わったことのないペコリーノだった。 続く料理はFettucine di funghi, parmigiano e rosmarino あわせるワインはKymaira Bianco、これはCocociola, Passerina, Moscatoのブレンド。アロマティックな香りを持つ辛口白ワイン。メインの肉料理、Manzo, cicorietta, senape 牛肉の煮込みとラディッキオ、マスタードには2種類のモンテプルチアーノをあわせた。Antrum Montepulciano d’Abruzzo DOC 2014とFosso Cancelli Montepulciano d’Abruzzo DOC 2015だ。両者ともにロレート・アプルティーノのモンテプルチアーノ100%だが前者はステンレスタンクで発酵後バリックとトノーで3年から4年熟成後リリース。一方後者はセメント槽で自然発酵後清澄化を行わず、瓶内で最低3年熟成させて作る。前者はダークチェリー、ブラックベリー、ローリエ、ネズの実の香りを持ち、後者は完熟した赤いフルーツ、黒胡椒、バルサミコ、リコリス、チョコレート、タバコのニュアンスで味わいはタンニンが心地よく余韻が非常に長く厚みがある。 「Fosso Cancelli Montepulciano d’Abruzzo DOCは2007年が初リリースですが、わたしは自信を持ってチャボリッチの名前をエチケットに書き込みました。娘の世代へと伝えたい伝統的で素晴らしいモンテプルチアーノで、これから10年、20年と寝かせて楽しむことができると思います。」とキアラが言うようにまだまだこれからの熟成を見守りたい、長期熟成に耐えうるであろう力強いモンテプルチアーノ・ダブルッツォだった。 www.ciavolich.com

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