オリーブオイル・ツーリズムはトスカーナから始まる。フラントイオ「プルネーティ」の提案
イタリアのオリーブオイル業界はワイン業界に比べて20年遅れている、と常々言われている。品質の追求、消費者へのアピール、エデュケーションなどなど、ワイン業界が先んじて展開、投資してきたことが、2000年代以降ようやくオリーブオイル業界にも浸透し始めている。特に品質についてはもうこれ以上磨き上げる余地はないだろうと思えるほど、進化している。しかし、エデュケーションという点ではまだまだやるべきことが山積み。イタリアのスーパーでは相変わらず特売の目玉商品として怪しいEVオリーブオイルが鎮座しているし、安いオイルは当然ながら劣化しているものも多い。どんな基準でオイルを選ぶべきか、もとより、本来のEVオリーブオイルはどういう味を持つのかをもっと広く伝えなければならない。 トスカーナのオリーブオイルは、長いことワイナリーがサイドビジネスとして作ってきた。あるいは農家が自家消費用に作るものだった。ワイナリーでもハイクォリティを目指す造り手は、オリーブオイルの質についても当然こだわったから、昔から良いオリーブオイルを買うなら優れたワイナリーのものを選ぶのが普通だった。それが最近ではオリーブオイル専門のメーカーが増えてきている。元から農家だったか、あるいは脱サラなど新規参入組も多い。しかし、上質なオイルを作るには最新の機械が必要で、農家にしろ新規参入にしろ、莫大な投資をしなければならない。しかも相手は自然、年によってはオリーブが全滅することもあり、かなりのリスクを伴う仕事だ。それでもこの世界に飛び込むというのは、オリーブオイルがよっぽど好きな人々である。 トスカーナのキャンティ地区北部で4代に渡ってオリーブオイルを作っているフラントイオ(搾油場)「Pruneti」は、もともと本拠であるサン・ポーロ・イン・キャンティで農業を営み、化粧品の材料であるイリス(アヤメ)、オリーブオイル、ワイン、野菜などを手がけていた。3代目のジルベルトはワイン造りに力を入れ、そして4代目で、現在のプルネーティの中核であるパオロとジョンニ兄弟が上質なオリーブオイル作りに取り組んだ。古いオリーブ畑を整備し直し、また新たにオリーブに適した土地を入手し、栽培するオリーブの品種も見直した。剪定には細心の注意を払い、先進的な搾油機械と保管システムを導入した。こうして、「プルネーティ」のオイルは各地のコンクールで賞をとり、オリーブオイルガイドブックでも高評価を得るようになった。 次にプルネーティ兄弟が考えたのは、もっと広くオリーブオイルについて知ってもらうためにはどうすればいいか、だった。それには何をおいても現地に来てもらうのが一番いい。畑を見て、搾油場を見学して、さらに味わってもらう必要がある。そこで、搾油場の上に新しくテイスティングルームを設けた。広い部屋にライブラリー風に棚を置き、オリーブオイルのボトルを並べた。テイスティングでは訪問者の好みと知識の度合いに合わせてプログラムをカスタマイズする。そしてさらに、車で20分ほどの距離にあるグレーヴェ・イン・キャンティに、今年6月にオープンした「エクストラ・ギャラリー」へと案内し、色々なオリーブオイルを料理とのペアリングで楽しんでもらう。料理を選べばそれに合うオリーブオイルがグラスで供され、テイスティングした後で料理に好きなだけかけて味わうという趣向である。このギャラリーは、食事の他に、オリーブオイルを使ったデザート、オリーブオイルのカクテルもあるレストランカフェで、グレーヴェに遊びに来た時にも気軽に立ち寄ることができる。プルネーティ兄弟によれば、オリーブオイルは調味料ではなく食材だということを実体験してもらうのがこのギャラリーの狙いだ。 ワイナリーが人々を現地に引き寄せるために見出したENO(ワイン)ツーリズムと同じく、オリーブオイル業界もそう遠くない将来、プルネーティのような先進的なEVO(Extra Virgin Oliveoil)ツーリズムでさらに広く深く魅力を訴えるメーカーが増えるだろう。 ☆Prunetiでのオリーブオイル体験ツアーをオーガナイズしています。詳細はこちらへ。SAPORITAをもっと見る
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