アブルッツォ伝統コペラテーヴァの実力派カンティーナ・トッロ
20世紀におけるアブルッツォのワイン生産は、何人かの意欲的な生産者をのぞきほとんどが生産者組合=カンティーナ・コペラティーヴァ Cantina Cooperativa(あるいはカンティーナ・ソチャーレ Cantina Sociale)に頼ってきた。それには歴史的な要因がある。代々農家に生まれ、農家を引き継ぎ農夫のまま死ぬことが多かったアブルッツォでは、子供達へ遺産相続する際土地を分割して分け与える習慣が長い間続いていたのだ。ゆえにブドウ畑のオーナーとはいえ1haにも満たない土地所有者も多く、当然のことながら自分一人ではワインを生産することはままならなかった。そういう理由から生まれたシステムが、中小零細のブドウ農家が集まって形成するコペラティーヴァなのだ。こうしたカンティーナ・コペラティーヴァあるいはカンティーナ・ソチャーレは現在アブルッツォに大小合わせて30以上あるが、残念がら質より量を追求したコペラティーヴァがアブルッツォ・ワインのイメージを落としてきたという事実は否めない。しかし近年では量も質も追求するコペラティーヴァも存在するが、その代表が「カンティーナ・トッロ Cantina Tollo」だ。 「トッロ」はヨーロッパでも最も重要な生産者組合のひとつであり、現在は参加している生産者、栽培農家合計1000件、作付面積3200ha、年間生産量1300万本を誇る。「トッロ」を上回る規模のコペラティーヴァはアブルッツォには参加3000社、作付面積6000ha、年間生産量1800万本の「コーディチェ・チトラ Codice Citra」しかない。また2019年よりDOCからDOCGに昇格したテッレ・トッレージ・トゥルム Terre Tollesi Tullumは75haしかない小さなDOCGだがTullum(Tolloのラテン語)が示す通りほぼ全域が「トッロ」がしめているDOCGだ。「トッロ」が生産しているのは主に伝統的な在来品種であるモンテプルチアーノ、トレッビアーノ、ペコリーノ、ココチョーラ、パッセリーナを中心に一部国際品種で、赤ワイン8種類、ロゼワイン3種類、白ワイン13種類、スパークリングワイン4種類の他にビオ&ヴィーガンワイン4種類を生産している。毎年恒例4月のVinitalyで「トッロ」の巨大なブースを見たことがある人も多いかもしれない。 「トッロ」では6種類を試飲した。ココチョーラ・ダブルッツォ Cococciola d’Abruzzoは若い白桃、洋梨、ミネラルに富む爽やかな白ワイン。トレッビアーノ・ダブルッツォ”チンカンタ” Trebbiano d’Abruzzo “C’Incanta”は創立50周年を記念したアニバーサリーワインで1960年当時と同じくセメント槽で自然酵母を用いた自然発酵 Fermentazione Spontaneaを行い、シュールリーで18ケ月熟成。2010、2011年にはトレビッキエーリも受賞した「トッロ」を代表する白ワインだ。濃密な完熟したフルーツ、リンゴ、洋梨、白桃やドライ・アプリコットのようなドライフルーツのニュアンスも併せ持つ。チェラスオーロ・ダブルッツォ”ヘドス” Cerasuolo d’Abruzzo “Hedos” はモンテプルチアーノ種をマセラシオンして色素を抽出したチャーミングなロゼワイン。甘いバラや軽い白胡椒の香りが特徴的だ。最初の赤ワインはロッソ・クアットロチェトノーヴェ・アブルッツォ Rosso 409 Abruzzoはモンテプルチアーノ80%、メルロー20%。モンテプルチアーノはセメント槽で、メルローはバリックの新樽で別々に熟成させてからブレンドする。上品なプラム、チェリー、スミレはバラといった上質なサンジョヴェーゼに似たニュアンスと濃厚な味わいがある。モンテプルチアーノ・ダブルッツォ・リゼルヴァ Montepulciano d’Abruzzo Riserva “Cagiòlo” はベールのように柔らかく、かつ黄金の剣のような切れ味をコンセプトに作られたワイン。プラム、チェリー、滑らかで飲みやすく、心地よく長い余韻。最後のモンテプルチアーノ・ダブルッツォ・リゼルヴァ “モー” Montepulciano d’Abruzzo Riserva “MO” は2011年ヴィンテージから5年連続トレビキ獲得しているのをはじめ多くの賞を受賞したアブルッツォを代表するモンテプルチアーノ。24ケ月オーク樽で熟成後瓶内熟成6ケ月。ダークチェリーとブラックベリー、濃厚かつ濃密、重厚な味わいの凄い赤ワインだった。 www.cantinatollo.itSAPORITAをもっと見る
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