イタリア料理界よ、新型コロナに屈するな #wearenothevirus
連日報道されている通り、日本もイタリアもここ2週間ほど話題といえばコロナ、コロナでことイタリア料理界に関してはいい材料が全くと言っていいほどない。一連のイベントでいえば2月13日に行われた「スーパーマーケット・トレードショー」の頃はまだコロナ禍は深刻ではなかったが、その後2月22日開催予定だった「EU GIチーズフェスティバル」が中止となり、業界の話題は3月10日〜13日開催予定の「フーデックス」は果たして開催されるのか?ということに集中した。これはイタリア大使館貿易促進部ICEも毎年独自のブースを出展するイタリア料理界においては一年で最も大きなイベントのひとつで、早くからある大手インポーターが出展をとりやめたとか、とあるワイン協会が来日をキャンセルした、というネガティブな話題ばかりが耳にはいる日々。当初は開催を強く打ち出していた「フーデックス」だったが、結局2月26日に発表された政府勧告を受け、急遽中止を宣言。イタリア料理業界は一気に長い冬に突入したかのような空気に包まれたのだ。 わたし個人としても今年の「フーデックス」ではアブルッツォ・ワイン協会来日にあわせ、一連のアブルッツォ・ワインのプロモーション・キャンペーンを都内のイタリア料理店で行う予定だった。50人規模の記者会見とガラディナーを予定していた「クレアッタ」、オリジナル・メニューとアブルッツォ・ワインのペアリング、そして生産者来日ディナーを予定していた「ダイ・パエサーニ」「オステリア・デッロ・スクード」「ケ・パッキア」「トラットリアッチャ」「サンヤコピーノ」「サバティーニ・フィレンツェ」「アルベリーニ」でのキャンペーンも、「フーデックス」中止に伴いアブルッツォ・ワイン協会と16の生産者の来日も全て中止。イタリア料理に関わる多くの友人から「キャンセル続出で大変です」という悲鳴が届いてくる中、そのキャンセル禍の一端となってしまったことは心苦しいを通り越して罪悪感を覚えている。 しかしイタリア料理界をとりまく状況は、より感染者数が多いイタリアの方が深刻かもしれない。感染者が多く出たロンバルディア州では、州都ミラノではバールの営業時間が6時〜18時に制限されたことをはじめ、バール、ジェラテリア、レストランからことごとく人々の姿が消えているという。損失額はおよそ20億ユーロ(約2400億円)、2万人が職を失うことが予測されており、売り上げが80%減少しているエリアもあるといわれているほどだ。 本来ならば未曾有の危機的状況のはずなのだが、イタリア人は素直に政府や行政の決定に従うことが将来嫌いなのか苦手なのか、イタリア本国では「アンチ・コロナ」ともいうべく前を向く活動がすでに始まっている。例年この時期ミラノで行われる、イタリアにおける最も重要なフードイベント「イデンティタ・ゴローゼ」は中止でなく早々に7月に延期を発表。フィレンツェでここ数年存在感を増しつつある「テイスト」も6月に延期決定と「自粛=中止」ではなくいちはやく新日程を発表、4月に行われる「ヴィーニタリー」は現時点では予定通り開催すると宣言、決してメンタル的に新型コロナに屈しないというファイティングポーズをとり続けている。 フィレンツェのレストラン「エッセンツィアーレ」では2月26日夜の営業で、オープン以来初の来客ゼロ「ノーゲスト」を記録。オーナーシェフ、シモーネ・チプリアーニはマスク姿の人々がスーパーマーケットでパスタやトマト缶など食材を買い占めて家に閉じこもり、レストランから遠ざかる状況に危機感を抱き「なによりも恐ろしいウイルスとは人々の個々の中に宿る恐怖心だ」と、シェフ、ジャーナリスト、カメリエーレ、ソムリエら食に関わるイタリア人とともにマスクの代わりに食材(プロシュット、チーズ、あるいはグラス)を口に当ててSNSに投稿する#wearenothevirusを始めた。これは新型コロナに精神面で屈しない姿勢を示したもので、できれば日本はじめ世界中の人々に連帯してもらいたいという。表現方法は異なっているとしても、日本のイタリア料理界が直面している状況は本国イタリアと似通っていると思う。この未曾有の危機をどう乗り切るか?嘆いてばかりではいられない。ラテン的前向きメンタリティから学べるヒントは、きっとなにかしらあるはずだ。  

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