アマン東京アルヴァ、平木正和の新たな挑戦
「アマン東京」33Fにある「アルヴァ」は2016年に平木正和さんがイタリアから帰国すると同時にシェフに就任。当時イタリアのファイン・ダイニング界で実力を発揮していた日本人シェフが帰国、あるいは日本店オープンが相次いだが平木さんの帰国もそうしたエポックメイキングなできごとのひとつ。ヴェネツィアの名門ホテル・バウアーで13年間勤め、最後にはエグゼクティヴ・シェフとなったそのキャリアは一目置かれて然るべきもの。東京の高級外資系ホテルに黒船が来襲したかのごとく、幾多のイタリア人シェフたちも戦々恐々としたことは予想に難く無い。 帰国当時は「ザ・レストラン」と呼ばれていたが2018年1月に「アルヴァ」と改名。これはラテン語でHarvest=収穫という意味だが、その名のごとく素材により敬意を払い、前面に出したメニューへとコンセプトもチェンジした。事実平木さんは日本国内の生産者の元に足しげく通い、そうした旅はすでに50回を超えた。そうした日本各地で生まれる食材の中から、あくまでイタリア料理というフィルターを通して季節を表現、提案する。そうしたイタリア料理は世界中で日本でしかできない「メイド・イン・ジャパン」のイタリア料理だとあらためて思う。この日もテーブルに着くや否や、うど、うるい、白アスパラガス、行者ニンニク、フキノトウ、クレソン、加賀レンコンといった、この日のメニューに使う旬の素材を平木さん自らが持って来てくれた。

うど、うるい、カプリーノ・チーズ、キャビア Insalata di udo, asparagi bianchi, urui, caprino e caviale

最初に登場した前菜は、いずれも季節を先取りした野菜うど、うるい、白アスパラガス、これに香川県のチョウザメ飼育業者と平木さんが共同開発しているというオリジナルの「アマン」キャビアをトッピング。漆黒というよりもややグレーがかったナチュラルなキャビアは塩分濃度3%と甘口で、チョウザメの卵の風味がよくわかる。これに酸味と脂肪分のコクがあるカプリーノ・チーズを合わせる。軽快かつ上品、考え抜いた末にたどり着いたシンプルな前菜。あわせたのはキャビアとの相性を考えた食前酒のシャンパーニュ Duval – Leroy

NZ産オーラ・キングサーモンの低音コンフィ Confit di Salmone reale “Ora” di Nuova Zelanda, cressione

温かい前菜は、柔らかく火を通したNZ産キングサーモンのコンフィ。脂の強いサーモンには千葉産の天然クレソンの苦味を合わせる。トッピングもマイクロ・クレソン、続くワインもシャンパーニュでLauren Perrier Cuvee Rose Brut

白アスパラガスとポーチドエッグ、黒トリュフ Asparagi bianchi, uova pochet e tartufo nero

はしりの白アスパラガスは卵と合わせるイタリア料理の黄金律。さらに黒トリュフ、土と大地、春の目覚めを感じる料理。合わせたワインはほんのりオレンジ色がかったアルザスのピノ・グリ Domaine Ostertag Vin d’Alsace Pino Gris “Zerberg” 2016 ほのかな苦味が白アスパラガスや卵黄とよくあう。そのあとには「箸休め」ならぬ「口休め」に、とプレンタレッレが大胆にも一株丸ごと登場。これを手でむしりながらバーニャカウダソースで食べる。「この食べ方が一番好きなんです」と平木シェフ。ここではじめてイタリアワインが登場。バーニャカウダにあわせてリグーリアからPoggio dei Goleri ” Blu.dimare” Vermentino 2018 グレープフルーツの香りとアーモンドのような香ばしさとほろ苦さ。

ウニのスパゲッティ・アーリオ・オーリオとマグロのボッタルガ Spaghetti all’aglio e olio ai ricci di mare, bottarga di tonno

「アルヴァ」のシグネチャーディッシュのひとつだというパスタ。ニンニクは香り付け程度のマイルドなソースに甘口のウニをトッピング、さらにシチリア産マグロのボッタルガの塩味と風味をプラスして食べる。パスタは平木シェフ愛用のSetaro。ここでワインは再びフランスに戻りDomaine Alain Geffroy Chablis Premier Cru “Fourchaume” ウニとシャブリだ。

金目鯛と加賀蓮根のロースト、サルサ・ペヴェラータ Orata Rosa “Kinmedai” con loto arrosto “KAGA RENKON” salsa peverata

またしても平木シェフ自らがとりわけ、サーブしてくれたのが皮目をパリっと焼いた金目鯛。一緒に登場したのが丸ごとローストした加賀蓮根で、火を入れると粘り気が出て、独特の食感がなんともいえない。あわせたのはヴェネト地方の伝統的ソース「ペヴェラータ」で、これは本来ホロホロ鶏や鵞鳥など野趣が強い鶏肉にあわせる。「万能なんで、ぼくは野菜にもなんにでもこのソースを使います」平木シェフのレシピではアンチョビ、レモン、サラーメミラノなどを使う。ヴェネト伝統の味わい。ワインはPio Cesare “Piodilei” Chardonnay 2018

エゾシカ3種の調理法 Cervo “EZO JIKA” tre cotture diverse

この日のメインはエゾジカを3種の調理法で味わう。右からレバー、ハツ、そしてフィレ。レバーは濃厚かつ野趣が強く、ハツも力強い生命の息吹を感じるがごとく。つけあわせの行者ニンニクも荒々しく、木の芽を使ったサルサ・ペヴェラータの強い香りも鹿の野趣とよくあう。一方フィレは上品かつ滑らかで極上。ワインはFratelli Fabio e Battista Borgogno “Barolo” 2014 ジェラート、トルタ・ディ・チョコラートのあとには昔風「ジェラティエレ」による一口サイズの手作りジェラートが登場。現代のパコジェットで作るような滑らかさでは無く、かき氷を砕いたような荒々しさが特徴。一連の料理を食べた後平木さんとしばし話し込む。イタリアで長く過ごした後だけに、とにかく日本の食材がいま面白くてしようがないという彼ののめり込みようを見て、ホテルとしてもマネージメント的スタンスのエグゼクティブシェフではなく、アートディレクター的存在の平木さんの自由を尊重しているという。時には船にも同乗するほど食材の現場への思いは強く、そうした食材から生まれた料理は最低限の調理と火入れに、イタリア的ニュアンスで味付けする、満足感は高いが体に負担がかからない極めてヘルシーな料理。食べ終わった後、また違う料理を食べたくなるから不思議だ。 また、積極的にテーブルに登場して自ら食材を説明し、とりわけ、仕上げるのも現在の平木産のスタイル。高級ホテルダイニングでありながら自分のやりたいように、肩肘張らず楽しく仕事している様子が伝わってくる。 アマンという都会のリトリートにありながらも、こうした一連の平木料理によるメニュー・デグスタツィーネは非常にリーズナブルなのも特筆に値する。ランチならば「Naturale 自然」5皿で6,900円、プリフィクスの「Terra 大地」は2皿で4,200円、ドルチェ込みでも4,900円とハイ・コスト・パフォーマンス。一方夜のメニューはプリフィクスの「Coltivare 栽培」が9,000円または12,000円、「Raccolta 収穫」14,000円、「Stagione 四季」17,000円とメニュー内容はまさに読んで字のごとく、平木ワールドを存分に堪能する夜のコースも、すぐにまた試してみたいと思わせてくれるのだ。

アルヴァ アマン東京 www.aman.com/ja-jp/resorts/aman-tokyo/arva-restaurant 〒100-0004 東京都千代田区 大手町1-5-6 大手町タワー 営業時間 11:30〜14:30、17:30〜21:00 問い合わせ Tel03-5224-3339 (9:00am – 9:00pm)

 

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