アジア50ベストに見るイタリア料理の現状
去る3月24日、赤坂クロス・トーキョーで「アジア50ベスト」の「バーチャル」アワードが行われた。これは本来ならば佐賀県武雄市にて史上初めて日本がホスト国として開催されるはずだったが、一連のコロナ禍でアワード自体は中止。代わりにランキングの発表はロンドンからネットで中継され、日本ではそのライブ中継を見ながら入賞シェフが登場するという形式となった。とはいえ大人数での集会に自粛が求められている現在、出席者は全員マスク着用が義務付けられ入り口では検温、アルコール消毒されるなどの措置が取られた。会場は世界のレストランが苦しんでいる現状を鑑み派手な演出な祝祭的雰囲気は無し。どちらかというと重苦しいままランキングの発表は進み、日本のレストランが入賞するたび「おお」という声が上がる程度。入賞レストランはすでに多くのメディアが報じているので興味がある方はこちらを参考にしていただきたいが、SAPORITAではイタリア料理の話のみに限定する。 今回アジアのTOPレストラン50以内に入ったイタリア料理は2件のみ。あとは圧倒的にフランス料理をベースにしたイノヴェーティヴ、和食、タイ料理、中国料理などなどイタリア料理の存在感は極めて薄かった。ランキング最上位は「ブルガリ イル リストランテ ルカ・ファンティン Bvlgari Il Ristonrate Luca Fantin」が17位入賞(昨年は18位)アジアNo.1イタリア料理店兼No.1イタリア人シェフとなった。イタリア料理としては長年唯一50位内の常連だった香港のミシュラン3つ星「オット・エ・メッツォ・ボンバーナ 8 1/2 Bombana」は32位とランクを下げ、ことアジアのイタリア人シェフに関しては世代交代が顕著なランキングとなったのが印象的だった。しかし問題は他のイタリア料理店の存在だ。果たして日本を含むアジアにはアジア50ベストに値するイタリア料理店は存在しないのだろうか? 今回ランキングに入らなかった注目店に目を向けて見ると、ルカ・ファンティンと同じホテル・ブルガリのメインダイニングならば、上海、北京(ドバイ、ミラノも)の「ブルガリ イル リストランテ ニコ・ロミート Bvlgari Il Ristorante Niko Romito」のシェフはアブルッツォ初の3つ星「レアーレ Reale」のニコ・ロミート Niko Romitoだ。上海店はオープン3ケ月後の2018年9月に1つ星を獲得。同じくベルガモの3つ星「ダ・ヴィットリオ Da Vittorio」上海店が2019年6月にオープン。そのわずか1ケ月後に1つ星獲得というこちらも超異例のスピードで星を得た。さきほどのウンベルト・ボンバーナは香港の他に上海とマカオに「8 1/2 Bombana」があり、北京には「オペラ Opera」、香港に「トラットリア・チャック Trattoria Ciak」がある。 一方日本はというとローマの3つ星シェフ、ハインツ・ベックのアジア唯一のレストランであり、世界で唯一彼の名前を冠した「ハインツ・ベック Heinz Beck」がある。丸の内の「アンティカ・オステリア・デル・ポンテ Antica Osteria del Ponte」はかつてイタリア史上2番目に3つ星を獲得した歴史的名店の日本店だ。また、名古屋の「エノテカ・ピンキオーリ Enoteca Pinchiorri」も今年初めて1つ星を獲得したし、銀座店復活計画もすでにSAPORITAで報じた通り。またバリ島のブルガリ・リゾートにも「ブルガリ イル リストランテ ルカ・ファンティン Bvlgari Il Ristonrate Luca Fantin」がある。こうして見るとフランス料理ほどではないもののイタリア料理の名店も決してアジアに少なくはない。さらに東京には徳吉洋二シェフの「アルテレーゴ Alterego」、能田耕太郎シェフの「ファーロ Faro」が高いレベルのイタリア料理を展開していることは誰もが知っているところだ。ならば日本のミシュラン同様、なぜこれほどイタリア料理の評価が低いのだろうか?World50Best同様Asia50Bestも現在審査員は男女同数で40%は毎年交代、過去18ケ月以内にその店を訪れ食事していないと投票できないというレギュレーションがある。つまりはまず足を運んでもらわないと物理的に票は伸びないというわけで、ここに50Bestの特殊性と独自性がある。 昨年3つ星シェフ、エンリコ・クリッパ Enrico Crippaと話した際も、なぜイタリア料理店がこれほどまでに評価が低いのか?という話題になった。「オステリア・フランチェスカーナ Osteria Francescana」が「Best of Best」として殿堂入りした昨年World50Bestの50位内にランクインしたのは29位エンリコ・クリッパの「ピアッツァ・ドゥオモ Piazza Duomo」、31位「レ・カランドレ Le Calandre」のみなのだ。そうした状況から考えられる仮定はひとつ。おそらく審査員たちはイタリア料理店にさほど関心を抱いていないということだ。World50Bestに代表されるガストロノミーシーンはトレンドの移り変わりが非常に激しい。新インド料理、新北欧料理、新タイ料理、NIKKEI料理、そして主役はアジアを舞台にしたフランス料理へ移りつつある。果たしてアジアにおいてイタリア料理はそうしたガストロノミーシーンの主役となりうるのか?それにはイタリア人シェフだけでなく日本人シェフの活躍いかんにかかってくる。今回アジア50ベストに入賞した日本のレストランは和食、フランス料理問わず合計12件、イタリア料理に関していえばルカ・ファンティンのみで日本人シェフはゼロだ。アジアレベルで勝負できる日本人シェフの台頭が望まれるが、その筆頭は現状ではおそらく「アルテレーゴ」OPEN1年で1つ星を獲得した徳吉洋二シェフ、イタリア人ならば「ハインツ・ベック」のカルミネ・アマランテ Carmine Amaranteだろう。期待を込めて来年度のアワードの行方を見守りたい。 最後になるが今回の「バーチャル・アワード」で多くのシェフたちから「イタリアに力を!!」というメッセージをいただいた。この場をお借りして改めて感謝申し上げたい。SAPORITAをもっと見る
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