病院に届く復活祭のシンボル菓子コロンバ
明日4月12日はパスクア=復活祭、カトリックにおいてクリスマスと並ぶ最も重要な行事であり、本来ならばヨーロッパの長く暗い冬に別れを告げ、春の訪れをことほぐ祝いの行事、であるはずだった。しかし今年のイタリアにおいて真の意味での復活祭はまだ遠い。イタリア全土のロックダウンは5月3日まで延長されることが昨日決定したのだ。
とはいえイタリア料理の世界では、毎日イタリア中のあらゆる料理人や主婦、フーディーズ、愛好家たちが料理を楽しむ様をYoutubeなどのSNSにアップ、#iorestoacasa「家にこもろう」というスローガンとともに、外出禁止令下でもあくまでもポジティヴに生きようとするその姿勢には心を打たれる。特にこの時期、カーニバルからパスクアにかけては、イタリア料理の世界において一年で最も多種多様な祝いの料理や祝いの菓子が食卓を賑わす時期である。その代表的な菓子が鳩型の発酵菓子コロンバだ。その起源は、鳩にまつわる伝説を持つ聖コロンバーニにあるといわれているが、詳しい歴史については以前の記事をご参照いただきたい。
そのイタリアだが、ピエモンテでは菓子店「アトリエ・レアーレ AtelieReale」とバター生産者「イナルピ Inalpi」がコラボ、対コロナ最前線で闘う医療従事者たちにせめて復活祭の味を届けようと日々コロンバ作りにエネルギーを注いでいる。前者はミシュラン1つ星「アンティカ・コロナーレアーレ Antica Corona Reale」のペイストリー部門で、ペイストリー・シェフのルカ・ズッキーニ Luca Zucchiniが中心。後者はピエモンテ産牛乳100%を使用したバター、粉ミルク、チーズを生産する地元メーカーだ。今回のコラボから生まれたコロンバは徹頭徹尾ピエモンテを意識したもので天然酵母による自然発酵、ビオ小麦粉、ピエモンテ産バター、ピエモンテIGPのヘーゼルナッツ、モスカート・ダスティDOCG、アルプス天然水で作り、ピエモンテでは作れないオレンジの砂糖漬けとアーモンドのみシチリア産だ。
「グラン・グルメ Gran Gourmet」と名付けられたこのコロンバは今週すでに400個がサンタ・クローチェ・エ・カルレ病院(クネオ)、サン・ルイジ病院(オルバッサーノ)、アメデオ・ディ・サヴォイア病院(トリノ)、サッコ病院(ミラノ)、スパッランツァーニ病院(ローマ)へと送られ、復活祭までには届く予定だ。今回の発案者の一人であるイナルピ社長アンブロジオ・インヴェルナッツィ Ambrogio Invernazziは「この困難な状況下に病院で働く全ての医療従事者たちに感謝と連帯の気持ちを伝えたい。彼の賞賛すべき活動はわたしたちイタリア人一人一人の中に、そしてイタリアという国の中に永遠に残るはずです。」という。さらに「アンティカ・コロナーレアーレ 」のシェフ、ジャン・ピエロ・ヴィヴァルダ Gian Piero Vivaldaは「この贈り物には大きな意味がある。それは最前線で働く人々に、作業の合間に少しでも「ドルチェ・タイム」を楽しんでもらいたいのはもちろんのこと、生産者たちを支えることにもなるのです。今回制作した400個のコロンバはクネオとトリノの400人の生産者が作った食材を使用してあり、なによりもイナルピのバターは100%ピエモンテ産牛乳を使用しているのです。」と語っている。
コロンバは、かつてロンゴバルド族の王がパヴィアに入城を果たした際、地元のパン職人から鳩の形をした甘いパンを贈られた時から「復活祭に捧げる平和のシンボル」として重要な役割果たしている。イタリアの復活祭においてコロンバとは単なる美味しい贈り物ではなく、平和を祝うシンボル菓子なのだ。今年は間に合わないだろうが、来年のパスクアではイタリア中の家庭が笑いながらコロンバを訳あって食べる、そんな光景が見られることを切望する。
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