アグリトゥリズモの失われた春
ボッカッチョの「デカメロン」のような事態が続くイタリア、トスカーナでいまアグリトゥリズモが危機に瀕している。本来ならばパスクア=復活祭とともに春の訪れを祝い、人々は郊外へと出かける観光シーズンの始まりなのだが、今年は「失われた春」と呼ばれているのだ。コンフアグリコルトゥーラ Confagricoltura(イタリア農業総同盟)によれば、レストラン同様トスカーナのアグリトゥリズモも5月末までの予約は100%キャンセル。ロックダウン延長が正式に決まったこともあり、近日中にはわずかに残っていた6月分の予約キャンセルもここ数日で本格化することが予想されている。 現在までの損害額は少なく見積もっても2500万ユーロ(約30億円)で、一軒平均の損害額は8000〜9000ユーロ(約96万円〜108万円)、アグリトゥリズモとは本来農家による小規模な家族経営が多い。また、宿泊キャンセルとは他の全ての営業もキャンセルとなったことを意味する。つまりテイスティング、食事、ウエディング、料理教室、ワイナリー訪問、農業体験などなど。トスカーナのアグリトゥリズモはイタリア20州の中で最多の4600軒、6万4000床を誇り、年平均90万人が訪れる。また、イタリアにおけるアグリトゥリズモ全体の売り上げは年間5億5000万ユーロ(約660億円)だがトスカーナではそのうち25%に相当する1億4000万ユーロ(約168億円)を売り上げている。アグリトゥリズモとは本来離農を防ぎ、兼業農家を奨励するためにイタリア政府が打ち出した農業形態なので、いずれのアグリトゥリズモも本業はワインや畜産、小麦などを中心とした農家である。ロックダウンが続いているとはいえ、屋外での農作業は許可されているため、トスカーナはじめ多くのアグリトゥリズモは本業の農作業に打ち込んでいる。まだ挽回できるリソースがあるのはテイクアウトに力を入れているレストラン業界同様だが、その意味でもコロナ収束後は2020年ヴィンテージのワインを購入するなど農家の保護にも力を入れようという運動もはじまりつつあるが、それが現金化されるのはまだ先のこと。今年の春はまだ遠いどころか、本来ならば一年でもっとも美しい季節、そうかのボッティチェッリが「春=Pリマヴェーラ」に描いたような、美しいトスカーナの春は完全に失われてしまったのだ。SAPORITAをもっと見る
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